「臆病な自尊心と尊大な羞恥（しゅうち）心をこじらせてトラになってしまった」画家の父と小学生の息子が、現代美術を謙虚に学び直す。そんな設定の漫画『美術のトラちゃん』が昨秋出た。ウェブメディア「ＣＩＮＲＡ（シンラ）」の人気連載をまとめた本で、発売３カ月で３刷と好調だ。覆面作家の著者パピヨン本田さんは元々美術家。コロナで展覧会が軒並み中止となるなか、ＳＮＳに投稿した漫画が評判を呼び、連載の声がかかった。
一話２ページで現代美術をめぐる様々な話題を、パロディーや時事ネタを絡めて紹介する。異世界に転生して前衛芸術家集団「フルクサス」と戦ったり、覆面作家バンクシー（なぜか漫画では山下清の風貌〈ふうぼう〉）を捕まえたり……。設定は毎回ぶっ飛んでいるが、各コマに詰め込まれた情報や補足解説のテキストは本格志向。笑いながら現代美術への視界が一気にひらける。
絵は色鉛筆をメインに手描きしている。コマ割りや題字に昭和の薫りが立ち上るが、パピヨンさんは平成の１９９５年生まれだ。美術作家で漫画も描いた故・タイガー立石が憧れと言う。
「現代美術は鼻持ちならないと思われがち。でも、これを読んでトラちゃんたちのかわいい絵が浮かんでそんな気分が和らげばいいな、と。美術解説漫画ではなく、現代美術って面白い！と説得にかかっている漫画です」（木村尚貴）＝朝日新聞2024年1月6日掲載
