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カレー沢薫「わたしの証拠」 バランス絶妙、老い・終活軽やかに

©カレー沢薫/小学館

 年をとってみて、親や伴侶を亡くしてみて、人生の曲がり角に立ってみて、やっと気づくこと。そんな節目の経験から生まれるエピソードを老若男女さまざまな立場から描くショートストーリー集だ。

 老いや終活など重そうな現実を多くとりあげていて、たっぷりページを使って描いたら感動のストーリーになりそうな内容だが、作品のスタイルはいたって軽い。シンプルな絵柄で毎回8ページほどであっさり描ききる上に、半端な感動の空気にはきっちりツッコミも入って、絶妙なバランスの読み味だ。

 遺品を見て初めて知る親のもうひとつの姿。介護する側とされる側の気持ちのすれちがい。時代おくれになっていく自分の価値観や生活習慣へのいらだち。うまく折り合いのつけられない苦々しい現実のありさまが、ふっと息の抜ける笑いとともに、軽妙にすくい取られていく。家族や友人などの人間関係の、うっとうしさとかけがえのなさ。その狭間(はざま)で、両方を厳しくやさしい目でとらえていく著者の姿勢は、一貫して前向きだ。何かと生きにくい現実を、もうしばらく、開き直ってたくましく生きてみようか。読後にはそんな気分にさせてくれた。=朝日新聞2024年3月2日掲載