村上たかし「コンクリートの船」 史実に基づく物語を実直に描く
太平洋戦争末期、鋼材不足から国民は金属製品を供出させられ、陶器や竹などの代用品でしのいだ。それでも足りず、海軍は鉄の代わりにコンクリートを用いた船を造る。本作は、そんな冗談のような史実に基づく物語だ。
舞台は戦前の大阪。コンクリートの基礎工事を得意とする武田工務店は、大手の妨害もあり公共工事などの大きな仕事を受注できずにいた。思い切って挑んだ海外進出は空振り、他社に先駆けて動いた東京五輪の建設事業も中止。国家総動員法による物資統制、日米開戦と状況は悪化の一途だった。
そんな折、海軍よりコンクリートで石油輸送船を造ってほしいとの依頼が来る。前例のない難しい仕事を社長・武田宗次郎は引き受けた。理由のひとつは、海軍との合弁事業になれば従業員を戦地に送らずに済むということ。表立っては言えないが、従業員を守るためなら何でもするという社長の覚悟に頭が下がる。それに応える職人たちの仕事ぶりも頼もしい。そうした人々を描く作者の筆もまた実直だ。
連載のほうでは社長を乗せたコンクリート船が戦闘海域へ。折しも日本のタンカーがホルムズ海峡で足止め状態の今、リアルな緊迫感に震える。社長とコンクリ船の運命やいかに。=朝日新聞2026年4月4日掲載