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エラーの日 津村記久子

 郵便局に行って帰ってきたついでに郵便受けを確認すると、自分の名前と二文字しか一致していない問い合わせのハガキが入っていた。郵便局からの「誰かがあなたに何かを送りたがっているが、あなたの居住を確認できなかった」という内容のハガキで、手書きの「***様」欄のわたしの名前が二文字だけ同じだった。別人の名前とも言えるし、けれども漢字の雰囲気が似ているので、わたしの名前を書き間違えているとも言えそうだし、電話番号はあったけれども変に電話をしても怖そうなので困惑した。

 行ったばかりの郵便局に持って行くと、ハガキは本物だとのことで、でも名前の四割はあっているので自分を指しているのか他の人宛なのかよくわからない、と話すと、局員さんも首を傾(かし)げたあげく、ハガキは処理してもらえることになった。

 一日二回も郵便局に行ったので何か報酬が欲しい、と思って、近くの超有名チェーンになんとなく寄った。端末でテイクアウトの注文をして、カードで決済しようとすると、エラーだということになり、わたしは端末が吐き出した注文票を持って店員さんがいるレジに行った。店員さんはすぐに商品を持ってきてくれたが、中身を間違えていた。

 変な日だった。自分宛に来たハガキの名前が半分以上間違っていて、その帰りに寄った店では端末がエラーを出し、店員さんも注文を間違える。

 調べると、知らない人の名前が書かれた居住確認のハガキは、以前の住人の名前である可能性が高いという。でも真実はわからない。やっぱりわたしの名前の半分以上が書き間違えられていたのかもしれない。送り主の字が読みにくかったのかもしれない。それでハガキを書いた人もわたしの名前を書き間違える。

 変な話だが、他人や機械はちゃんとしていて自分はそうではない、という卑屈さが、この日以来少しなくなった。自分だけでなく、みんながエラーを出すのだ。=朝日新聞2024年3月13日掲載