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「なぜ、無実の人が罪を認め、犯罪者が罪を免れるのか」書評 米国の刑事政策の変化に警鐘

評者: 神林龍 / 朝⽇新聞掲載:2024年03月16日
なぜ、無実の人が罪を認め、犯罪者が罰を免れるのか 壊れたアメリカの法制度 著者: 出版社:中央公論新社 ジャンル:司法・裁判・訴訟法

ISBN: 9784120057397
発売⽇: 2024/02/21
サイズ: 20cm/229p

「なぜ、無実の人が罪を認め、犯罪者が罪を免れるのか」 [著]ジェド・S・レイコフ

 米国で犯罪率が低下したのは、軽犯罪初犯でも実刑判決を出して刑務所に収監するようになったから、と司法関係者が誇らしげに話しているとすればどう感じるだろうか。確かに、再犯率を低くするのは各国刑事政策の主要目標のひとつだ。米国では刑務所を民営化し低コスト運営を実現させた。刑務所はあふれんばかりに混雑するようになったが、刑務所の外では犯罪率は低下したのである。これを刑事政策の成功とみるかは、人によるだろう。
 他の話題をもうひとつ。米国の刑事裁判といえば司法取引が有名だが、本書によれば、以前は例外的だったこの手法が多用されるようになったのは最近の話だそうだ。司法取引の前提には「認めてしまったほうが(反省しているのだから)罪が軽くなる」という理屈がある。だが、司法取引の多用は、かえって「無実の人が罪を認め」冤罪(えんざい)を生み出す温床をつくり、検察の起訴権との組み合わせでその危険が増幅されていると説明する。徹頭徹尾米国の解説のはずなのだが、読んでいるとどこの話かと錯覚する。
 こうした刑事政策の変化は、実は米国ではいくつも起こっている。ところが、政権交代によらず着々と進行したため、世の中にはなかなか知られていないらしい。対して、建国以来の米国的価値をないがしろにするものだと声高に警鐘を鳴らすのが本書だ。検事・判事を歴任し、注目された事件にもかかわった著者が、雑誌に連載したエッセイをまとめ直している。
 訳者もわざわざことわっているように、制度の異なる日本と米国は同列には扱えない。しかし刑事政策は、社会がひとをどう遇するかという根本問題を直接扱っている。著者が繰り返し合衆国憲法に言及するのは大げさでもなんでもない。自分の国の刑事政策について、細かな制度論や感情論だけではなく、その理念について深く考えてみるのも大事だ。
    ◇
Jed S. Rakoff 米ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所判事。注目裁判に多数関与し、新聞書評も寄稿。