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チャランポランな千鳥足が魅力「散歩哲学」 杉田俊介の新書速報

 島田雅彦散歩哲学 よく歩き、よく考える』(ハヤカワ新書・1078円)は「よく歩く者はよく考える。よく考える者は自由だ。自由は知性の権利だ」と主張する。しかしその「散歩哲学」とは、用もなくほっつき歩く「チャランポラン」または「徘徊(はいかい)」でもあるという。実際本書では人類学や地理学の話がされるかと思えば、歩き好きの文学者たちの話になり、また島田自身の諸外国の滞在経験の話になる。中盤以降はむしろ食べ歩き、飲み歩きのグルメガイドのようだ。まさにチャランポランな千鳥足が本書の魅力だろう。
★島田雅彦著、ハヤカワ新書・1078円

 君塚直隆君主制とはなんだろうか』(ちくまプリマー新書・990円)によれば、現在国際連合に加盟する一九三カ国のうち、君主制を採る国はわずか(日本を含めて)二八カ国である。本書は五〇〇〇年の世界史をたどり、君主制の歴史を紹介する壮大な入門書である。君主とは何者か。君主はなぜ「えらい」とされるのか。本書によれば、君主の役割は、政府の目の届きにくい弱者への配慮や、国民統合に継続性・安定性を与える点にある。イギリスの立憲君主制を参照した日本の戦後象徴天皇制にもそうした役割がある。世界中の大半の国が共和制になる中で、君主制は消えていくのか。残された役割とは何か。日本の人々は問われている。
★君塚直隆著、ちくまプリマー新書・990円=朝日新聞2024年3月30日掲載