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S・エリザベス「暗闇の美術」 苦しいのは自分だけじゃないと思え、救われる

陰鬱さ、物悲しさ、怪奇をテーマにした芸術作品200点以上を掲載。図版は、フリーダ・カーロ「傷ついた鹿」(1946年)を紹介するぺージ

 思春期、手当たり次第に展覧会や画集、映画を鑑賞するなかで特に心惹(ひ)かれた作品や作家が、本書にはたくさん登場する。大袈裟(おおげさ)に聞こえるかもしれないが、あの頃、自分のなかに堆積(たいせき)していく説明できない苦しさに内側から溺れるような恐怖を抱えながら、芸術と触れあうことでなんとか生き延びていた。奇(く)しくもいま、当時と似た捉えどころのない暗さに再び囚(とら)われている気がしていて、迷いなく本書を繰った。

 ゴヤやルドン、グロスやムンクだけじゃなく、オキーフやカーロとも再会する。苦しいのは自分だけじゃないと思え、救われる。

 恐ろしい絵画を、ホラー映画のように苦手と感じないのは、衝撃的に残酷な描写がなされているわけではないのに、言葉を失うほどの絶望や悲しみがしっかりそこに描かれているからだろう。理解可能で安全無害なセルフがあらゆる場面で求められる時代だが、ダークサイドが人間から消え去ることは決してない。暗い芸術にわたしはむしろ安堵(あんど)やカタルシスを覚え、不思議と心穏やかになれる。=朝日新聞2024年4月6日掲載