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映画「トラペジウム」原作・高山一実さんインタビュー 乃木坂46時代の小説「新しい作品になった」

高山一実さん=junko撮影

原作と別物を作るつもりで参加

――最初にアニメ映画化の話を聞いたときは、いかがでしたか?

 単行本が発売されてすぐの頃にオファーをいただいて、自分が書いた物語を書店で手に取ってもらえるだけでうれしかったのに、映画化という大きなお話をいただいて、とても光栄に思いました。でも、映画になると、より多くの方に観ていただく可能性があるので、受け入れてもらえるだろうかとか、90分ちょっとの中で、どう描かれるんだろうとか、不安な気持ちもありました。

――脚本や音楽などの制作にも携わったそうですね。

 はい。原作が元になっていますが、別物をつくるつもりで参加しました。 小説を書いているときは、具体的な場所のイメージはなかったんですけど、アニメでは、私の地元が出てきます。私が提案した場所もありますし、「あ、ここも出てくるんだ」というところもありました。小説に書いた楽曲「方位自身」も、曲にしたいと言っていただけて。なんとなくメロディーが浮かんでいることをお伝えしたら、音楽担当の横山克さんがきれいな曲にしてくださって、とても感動しました。

――声優さんのイメージはいかがでしたか?

 オーディションから、アフレコにも参加させていただいたのですが、それぞれ、声が役にぴったりでした。みなさん、第一声からすごい! と思って、プロのすごみを感じました。主人公の「ゆう」を演じた結川あさきさんも、私の思う「ゆう」になっていて。

 ゆうは、あんまり過剰に演じてほしくないなと思っていたんですけど、たぶん結川さんも同じような思いを持っていらっしゃって。監督から「もっと強く」というオーダーがあったときも、ちょうどいい塩梅にしてくださって、ありがたかったです。ゆうが歌うシーンでも、「ゆうだったら、こういう歌い方もあると思うんですけど、どっちがいいですかね?」って質問してくださって。そこまでゆうへの理解度を深めてくれていることが嬉しかったです。

――完成した作品を観て、いかがでしたか?

 小説とは違う、新しい作品になっていると思いました。オープニング曲もすごくよかったです。小説にはなかった、みんなが歌って踊るシーンは、もう、ただただかわいくて。小説を読んでいる方がどんな感想を持つかも楽しみですが、小説が苦手な方は、ぜひアニメから入っていただいて、小説を読んでいただくと感じ方も変わってくると思うので、小説を読むきっかけになったらいいなと思います。

(C)2024「トラペジウム」製作委員会

「映画では全然違うキャラに」

――小説は、現役アイドルが描くアイドルの物語として話題になりましたが、アイドルをテーマにしようと思ったのは、どんなきっかけですか?

 私は本が好きで、本に対する熱量はあったんですけど、本を読むようになったのは高校生の頃です。作家さんというと小さい頃から本が好きだったり、大学を出ている方も多かったりするので、自分には自信がありませんでした。

 月刊誌「ダ・ヴィンチ」(KADOKAWA)で連載することが決まって、自分の強みを考えたとき、アイドルの世界だったら書けるかもしれないと思いました。ミステリーが好きなので、女子同士のドロドロ系とかも案として出したのですが、東西南北の女の子を集めるのはキャッチーでいいと、担当の編集者さんに言っていただいて、プロットを考えました。

――それぞれのキャラクターはどんなふうに考えましたか?

 すんなり成功する話にはしたくなかったので、ゆうには一度つまずかせてからアイドルにさせようと思いました。そういう人物をつくるにはどうしたらいいか、どういう子だったら成功するか、こういう面を出してきたらちょっと煙たいよなとか、周りの子を観察しました。くるみは、橋本環奈ちゃんが一枚の写真でバズって大人気になったのが衝撃的だったので、そういう、ビジュアルが強くて有名人という子にしました。

 4人それぞれ思い入れがありますが、書いていくうちに、だんだんキャラクターの個性が育っていってくれたので、話を展開していくときに、この子を動かそうではなく、この子は動いてくれそう、みたいな感じに変わりました。映画では、また全然違うキャラクターになっている ので、小説の方が好きか、アニメの方が好きか、感想が分かれると面白いなと思います。

――みんなでアイドルを目指す話ではなく、アイドルになりたくない子も出てくるのが、意外性があっておもしろかったです。

 私はアイドルが好きだったので、誰もがアイドルになりたいものだと思っていたんですけど、仕事で街角インタビューをしたとき、アイドルは好きじゃないという子に会ったんです。マイクを向けても首を振っていて、小声で「アイドルは好きじゃないから」って。このアイドルグループは好きとか嫌いという好みはあっても、アイドル全体が苦手って人はあんまりいないと思っていたので、驚きました。そういう子もいるんだと。すごくキレイな子だったけど、この子はチャンスがあってもアイドルにはならないだろうとか、いろいろ考えるようになりました。

――高山さんが思うアイドルとはどんなものですか?

 ステージと客席のエネルギーがぶつかり合う場を提供してくれる存在と思います。ライブで、応援していただく側と応援する側の、あの空間というのは、アイドルならではのもので、いいものだなと思います。アイドルという職業に就かなきゃ見えないもの、得られないものがたくさんあって、私は良い職業だなと思います。アイドルに憧れているときは、どんなに辛いことがあってもなりたいと思っていたんですけど、実際になることができたら、思っていたよりも辛いことがなくて、楽しいこと、幸せなことばかりでした。私がアイドルになった時期や場所が、すごく運が良かったこともあるかもしれないので、私目線にはなりますが、アイドルはいい職業だよ、というのは伝えたいですね。

(C)2024「トラペジウム」製作委員会

大きな情熱を注げるものを探し中

――小説は書いてみてどうでしたか?

 大変でした。いいと思って書いたものも、次の日にはダメだと思うこともたくさんあって、書いても書いても満足できない。でも、締め切りはやってくるので、どこかで折り合いをつけないといけなくて、難しかったです。ストーリーは浮かんでいても、似たような表現だとつまらないから、どうしたら面白く伝えられるかなとか、そういう工夫を考えるのが楽しくもあり大変でもありました。

 映画ができて、改めて小説を読み直してみたら、私は小説が好きで書いたんだなと思いました。映画化を見据えて書いていたわけじゃない、強い思いで書いていたのは事実で、その後、次の作品が書けなかった意味もわかりました。本が出てから時間も経って、古い作品になっているんじゃないかと読むのが怖かったんですけど、これはこれでありだよねって思えたし、がんばる「ゆう」を書きたくて、それを書いていた自分も頑張っていたなって、振り返ることができました。

 小説では、夢を叶えるためにがんばることの素晴らしさみたいなものを伝えたかったんですけど、映画では、「アイドル」というのがより強調されていると思うので、アイドルに興味がある方が、「ゆうみたいにがんばろう」って、具体的に思ってもらえたら、「ゆう」をつくった身としては嬉しいなと思います。

――また書いてみたいとは思わないですか?

 いつか、自分にとって熱量が高いものが出てきたら、それについて書きたいなと思います。私は、アイドルという職業がすごくいいものだと思っているので、『トラペジウム』は、その一心で書けました。今、アイドルを卒業して2年くらい経ちますけど、まだ、アイドル以上に熱量のあるものが見つかっていないので、小説のテーマを探しつつ、高山一実として大きな情熱を注げるものも探し中です。