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ニコ・ニコルソン「呪文よ世界を覆せ」 短歌と出会い、人生が動き出す

講談社 759円

 歌集のヒットが相次ぎ、SNSには自作の投稿が引きも切らない。そんな空前の短歌ブームを背景にした〈短歌×お笑い×恋〉の三題噺(ばなし)である。

 主人公は、漫才コンビ「虎蜂(とらんばち)」のネタ&ボケ担当・虎屋戸太郎(とらやとたろう)。相方だけがブレイクし、同棲(どうせい)中の彼女には浮気され、傷心のまま上がった舞台では客をドン引きさせてしまう。最悪の気分で思わず吐いた自嘲の言葉を耳にした通りすがりの女性に「今の短歌でしたね」と話しかけられたところから、停滞していた彼の人生が動き出す。

 若くして短歌結社を主宰する彼女の気を引きたいがために訪れた書店の歌集コーナーで初めて接した現代口語短歌に戸太郎は衝撃を受ける。「たった31文字やのにワシの中に隠れてた欲望や感情が引っ張り出される」。凝縮された表現の力を知った彼は、お笑い界で下剋上(げこくじょう)を果たせるのか……!?

 物語の展開はもちろん、テンポのいい会話、表情豊かなキャラ、情感あふれる画面に惹(ひ)かれる。空回りしがちながら、笑いに懸ける戸太郎の情熱と素直さも好感度高し。作中には人気歌人・枡野浩一や吉岡太朗らの代表作的な短歌が登場。各話タイトルも短歌になっている。短歌好きも戸太郎同様の初心者も心をくすぐられるはずだ。=朝日新聞2024年6月1日掲載