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すがちゃん最高No.1さん×岸田奈美さん対談 きつい話もポジティブに書く「面白いのが一番かっこいい」

すがちゃん最高No.1さん(左)と岸田奈美さん=篠塚ようこ撮影

「読みやすい」が一番うれしい

――今回の対談は、岸田さんが、すがちゃんさんの初の著書『中1、一人暮らし、意外とバレない』の帯コメントを書いた縁で実現しました。

岸田奈美さん(以下、岸田):どうして私に帯をお願いしてくれたんですか。

すがちゃん最高No.1さん(以下、すが):エッセイの書き方がわからなくて、参考にしようと思って手に取ったのが岸田さんのエッセイで。ほら、やっぱ〈岸ちゃんエッセイ最高No.1〉っしょ。楽屋で読んでいたらナイツの塙さんが「あ、岸田奈美さんでしょ。NHKでドラマにもなった」って僕より詳しくて。

岸田:エーッ!塙さん⁉ めちゃくちゃ嬉しい。塙さんの書いた『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』が好きでもう何回も読んでるんですよ。

すが:ちょっと! 興味、塙さんに移ってるじゃないすか!

岸田:(笑)。いや、でも『中1、一人暮らし、意外とバレない』を読んでから、私の会いたい芸能人ランキング1位がすがちゃんになったんですよ。それまで25年間、BUMP OF CHICKENの藤くん(藤原基央さん)だったのに。ていうか、ちょっと似てますよね?

すが:あ、時々言われるっすね。光栄です。

岸田:けど今日会っちゃったので、1位はまた藤くんに戻りました。

すが:戻るなよ!

岸田:じつはお話が来た時、ちょっと迷ったんですよ。というのも、私、お笑いに疎くて、ラーメンズにすごくハマったあと止まっちゃってて。 そんな私が引き受けていいのかって。でも、私1日28時間ずっとSNSやってるんですけど。

すが:にじゅうはち……?

岸田:私の知り合いのエッセイストや小説家ってお笑い好きな人が多くて、タイムラインに「ぱーてぃーちゃん」ってワードがめっちゃ出てくるんですよ。サブリミナルみたいに。それで、「今度こんな話がきてさ~」って言ったらもう周りが、親戚、友人一同みんな「即受けろ」って。「すがちゃんは、本気で自分でものを考えて本音で勝負した人だから結構、奈美と近いと思うよ」っていうのと、「あまりにもエピソードがおもろすぎるから、どこまで本当なのか偵察してきてほしい」っていう意見が半々で。

すが:最初はスパイはいりだったんだ。

岸田:人気のタレントさんだから、とかそういう話じゃなくて、あの人はこれから絶対スターになるし、結構、岸田奈美が言い続けてること、考え続けてることと同じことを考えてる人だと思うって、私の大切な人たちがみんな勧めてくれて。

すが:ちょっと、もうちょい長尺でおかわりもらっていいですか! いやあ、うれしいっすわ。僕は岸田さんの『国道沿いで、だいじょうぶ100回』を読んで、おこがましいですけど、すごい僕と近いと思って。いいこともイヤなことも、それが起こった時の反応とか、それを文字に起こして人に伝えるときの感覚が「わかるわ~」って。だから、すごく読みやすかったです。

岸田:嬉しい! 私、「読みやすい」が一番うれしいんです。無料で動画も見られて、ゲームもできるこの時代に、文字を読むってすごいハードル高いじゃないですか。その中で読んでくれるってことがまず嬉しい。で、読みやすいってことは、それだけ私の言葉が違和感なく届いて、私と同じ景色を心に思い浮かべてくれてるってことだと思うので。

無理心中に「あっぶねー!」

すが:僕が、おお、これだよ、これ、と思ったのは、病院にある「患者様のお声コーナー」に貼られている一見理不尽な苦情について書いたエッセイ(「病院で骨抜きのサバを出されては怒り狂う人よ」)。「夕飯に骨抜きのサバが出てきました」「骨折で入院している私のことを少しは配慮してほしかったです」っていう苦情が貼られてたっていう。いい感想、悪い感想、いろんな感想があるわけじゃないですか。でもそこで終わらずに、自分の中で考えてユニークに捉えようとしているところが、「岸田さん、僕っすね~」って感じでした。岸田さんって、根がポジティブですよね?

岸田:私も今日はそれを探りにきました。弟がダウン症で、お父さんが急死して、お母さん車椅子になって……って、そういう、まあ言ってみれば、きつい話、悲しい話をこんなに面白く書けるのは私しかいないんじゃないかと思ってたんですよ。でも、『中1、一人暮らし、意外とバレない』は軽々と超えてきた。

 とくに、両親不在のなか、親代わりをしてくれていた伯母の〈かっちゃん〉が思い悩んで、すがちゃんを海に連れて行って、無理心中しようとするところ。辛すぎる話じゃないですか。それを人に語ろうとするとき、普通だったらもっと美談にすると思う。「かっちゃんを抱きしめて、僕もいいよって言ったんだよ……」とか、「今思うとあの時のかっちゃんの気持ち、わかるんだよ……」みたいな。でも、すがちゃんはそこで「あっぶねーーーー!!!」って思う。こんなこと、誰も書いたことないですよ。

 昔、「芥川賞をとるような一流の作家とは」って編集さんに尋ねたとき、「全員が経験したことあるのに、誰も言葉にしたことがない感情を書くこと」って教えられたことがあります。この「あっぶねーーーー!!!」を読んだとき、これやん、って思ったんです。

すが:うっわー! 僕、芥川かあ。

岸田:芥川ですよ。

すが:何回でもこの時間おかわりしたいすね~!

岸田:それでこのエピソードのまとめに来るのが、「だからといって海に帰るわけにはいかない。ゴジラじゃないんだから」って。これも、ヤバい。

すが:ちょっと動画も回しましょうよ! 今のくだり、寝る前に見返したい。

岸田:ずっと育ててくれた人に海に連れていかれて、もっとエモくも書けるところを、どうしてこんな感情になったんですか。

すが:どこか自信があったんだと思います。そのままかっちゃんが海に帰って行こうとしても、最悪、僕が担いで陸にもどれるっしょ、って。

岸田:その自信はどっから来てるんですか? 私の場合は完全に両親からなんですよ。小さい頃、私が「弟じゃなくて私を見てほしい」って拗ねたらしくて。それまでは、弟の障害のことで私が辛い目に遭うかもしれないから、強くなれって厳しくしてたらしいんですけど、大間違いだったって。ここで自信を失ったら、将来弟のことが嫌いになっちゃうし、自分にうまくいかないことがあっても弟のせいにしちゃうって。そこからは二枚舌外交ですよ。弟には「弟最高No.1!」、私には「奈美ちゃん最高No.1!」って接してくれました。だから根本的な自信があるんです。

 でも、すがちゃんのお父さんって、急に家からいなくなったり、戻ってきたと思ったら知らない子どもと女の人連れてたり、グチャグチャじゃないですか。

すが:グチャグチャですね(笑)。

岸田:このパターンは会ったことないと思って。逆境への恨みや怒りから強くなる人はいるけれど、そんな感じもないし。

すが:なんだろう? 一人暮らししていた話を人にすると「ひどい親だな」 とか言われるんですけど、僕、べつに親父に愛されなかったとは思ってないんですよね。親父は親父なりに僕を大事にしてくれてたと思っていて。

岸田:どうしてそう思えるんですか。

すが:一緒にいて面白かったんですよね。自分の息子をナンパのだしに使うとか、一緒にエロ本見に行くとか、なんか面白いじゃないですか。生き物として。

岸田:お父さんのこと、好きだったんですね。

すが:うーん、そうですね。好きだったし、憧れもあったかな。僕はすごく人に気を使うタイプなんですけど、親父は豪快そのもので。そういう意味ではうちのギャル二人と親父は同じ属性だと思います。

すがちゃんの愛読書『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』にサインした岸田さん

「面白い」で怒りを供養してきた

岸田:なんで恨みに向かわなかったんですか。私の場合は、書くことでアウトプットできてたからなんですけど。

すが:僕もそれっす。何が起きても「ネタになる」って思ってました。学校では一人暮らしがバレないように振る舞ってたんですけど、その周辺の「ばあちゃんが食費をグミにつぎ込んだ」みたいな話はよくして、みんなを笑わせてて。嫌なことがあっても笑いに変換させてたから、マジにはくらわなかったのかもしれない。だって、面白いのが一番かっこよくないですか。

岸田:いっしょー!!! 笑わせるって愛じゃないですか。笑えないくらいドン引きのことを言ってるときは、やっぱり相手のことを考えてないし、言ってどうすんの?なんですよ。

 昔、彼氏にダウン症の弟がいることで別れを切り出されたことがあって。それをエッセイに仕立ててその本が売られて、書店に見に行ったら、そいつが私の本持ってレジに並んでるんですよ。「お前、どの面下げて!」って掴みかかったら「ちゃうねん、俺のおかんがこれめっちゃ好きやねん! めっちゃ笑ってんねん!」って。その時に、彼氏のことも許せたし、怒りや悲しみが供養できたんです。怒りや悲しみって、他人は忘れていくじゃないですか。でも、私が面白く書いて笑わせたら、忘れられなくなる。私の怒り、記憶に刻み付けてやったからな!って思ったら気が済むんです。

すが:それはたしかにめちゃくちゃかっこいい!

岸田:でも、そうするには自信が必要ですよね。私は勝手に考察して、すがちゃんの自信は「山から受けた愛」から来てるのかって考えたんですよ。この本、異常に山形愛が出てくるじゃないですか。かっちゃんが東京へ一緒にいこうって言ってくれてるのに「俺は山形で生きていく。この山々のある景色で」って。意味わかんないですよ。山形にこんなふうに思う人いないよ。

すが:いやいや、山形いいとこだから(笑)!

 でも結局それも、「山を愛でる俺、かっこいい」ってことなんです。たぶん、漫画の影響。当時、『はじめの一歩』って漫画に出てくる鷹村守っていうキャラクターにシビれまくっていて。ものすごく強くて自信家で、「俺様が一番強いから」みたいな。たぶん鷹村だったらこうするだろうな、ってなり切ってたんだと思います。

「イタい奴」はいっしょにいたい奴

岸田:そういえば私も中学生の時は宮崎駿のアニメに出てくるシータとか、マダム・ジーナとか紅一点キャラに憧れてました。男どもに混じって冒険しつつ、みんなに大事にされている。自分はあれだと思いこんで、掃除の時間とかも「もう!男子ったら! しょうがないなあ、あたしやっとくから!」みたいな。でも途中から、これってイタい奴だなって気づく。すがちゃんは我に返ることなかったんですか?

すが:うーん、僕、誰かに見られてるからかっこつけてるんじゃなくて、誰も見てないことでもかっこつけて、俺って最高No.1じゃん、って思ってるんですよね。掃除の時間も、たぶん女子帰してまでやらずに、隅でこっそり掃除して「かっこいい!」って思ってた。

 イタい奴って、そこに愛が加わると「一緒にいたい奴」に変わるんじゃないかって思ってて。俺、かっこいいでしょ? じゃなくて、君が困ってるなら助けてやろう、そういう俺ってかっこいいわ~って。だからしょっちゅう人の相談とか受けてましたね。

 僕、めっちゃアンパンマンの気持ちわかりますもん。本来だったらあんぱんって丸の方が絶対かっこいいじゃないですか。でも、カバおくんが「腹減った」って言ったら自慢の丸を削って渡して、でもそれを「欠けた」と思うんじゃなくて、「この顔の傷、かっこいいっしょ」って思ってる。たぶん、バタコさんが「新しい顔よー!」ってパン投げてくるとき、「もうちょい、この場面くれよ」って思ってますよ、アンパンマンは。

岸田:(笑)。私、すがちゃんのカメラがどこにあるのか知りたい。私のカメラは思いっきり顔の前にあるんですよ。鬼主観。自分の感情がすべて。でもそれだとしんどいんですよ。辛いことが起こったとき、視野が狭くて、絶望から抜け出せなくなる。だから、私は書くことでカメラを上に移動させて、希望を見つけようとしてきたんです。

すが:岸田さんのカメラはもしかして、動画じゃないですか? 僕のはたぶん、静止画なんですよ。いろんなことが起きた後に最後に静止画のカメラがやってきて、「はい、チーズ」ってキメる。そこがかっこよければいいんです。

岸田:なるほど! その考え方は人類救う可能性がありますよ。

>【後編】すがちゃん最高No.1さん×岸田奈美さん対談 家族の思い出を書く。根底にある「怒り」と「自分好き」

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