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互盛央さん「連合の系譜」インタビュー 分断の今、新たな原理を

互盛央さん

 近代イギリスの思想家オーエンは、「全諸国民の全階級の連合」を夢見た。普遍的連合の可能性を考えるために互さんが着目したのは、意外にも20世紀を代表するピアニストのグレン・グールドだった。

 完璧主義者のグールドは、完璧な録音を最初に残すために原則同じ曲の盤を録音し直すことはなかった。しかし、バッハのゴルトベルク変奏曲は生涯で2種類の録音を残した。最初の録音を後年彼は「精神(spirit)」をその演奏から識別することができないと不満を語った。

 spiritという言葉は、古代ギリシャで万物の原理とされたプネウマ(精気)が源流にある。それは人と人の共感や、人と外界とのつながりを促すものだった。

 人とさまざまなものを無意識のうちにつなぐ働き――「連合」をめぐり西洋で連綿と続けられた思想の営みの大河が、グールドにまで流れ込む物語がここから始まる。原稿用紙4500枚以上、1286ページの文章に登場する人物は1千人を超えるという。

 ルソーやプルードン、マルクスといった思想家だけではなく、占星術や心霊主義、テレパシーなど思想史では顧みられない言説の系譜も重視する。「近代は理性によってプネウマを非理性的なものとして排除した時代だった」

 しかし、フランス革命後の近代では、理性による法の秩序を重視した結果、非理性的な人々のつながりの契機が軽んじられていく。それはあくまで国境といった境界の内側の人々の間での連合につながり、本来の「博愛」とは遠いものではないか。

 「近代における非理性の排除は、ルソーが志向した普遍的連合が、現実には個々人を『敵』と『味方』に分ける『連合』になってしまったことと恐らく無関係ではない」

 これまでの著作には、現代社会の基盤を用意した近代という時代への問題意識が通底している。今につながる知恵も見つかるのではないか。「人々の分断が深まった現代において、連合を可能にする新たな原理が必要とされている。この本はその課題に向き合った結果でもあります」(文・写真 女屋泰之)=朝日新聞2024年9月21日掲載