三峯徹(みつみねとおる)って誰? そう思った人も彼が描いた絵を見れば「あっ」と気づくかもしれない。エロマンガ誌に長年投稿を続ける伝説のハガキ職人。その半生がまさかの評伝マンガになった。
最初は懸賞マニアだったが、投稿文が掲載された喜びから投稿マニアへ。複数の雑誌で名前を見る投稿者にライバル心を燃やし「オレだって…いつかここ(書店)にある全ての雑誌の読者ページに載ってやる!!」と誓うシーンは熱血スポ根風だ。さらに20歳の頃、当時全盛の美少女コミック誌に出会って衝撃を受ける。そこにイラスト入りのハガキを送ったら、投稿者同士の掛け合いへと発展。その面白さにすっかりハマり、投稿は加速していく。
まだSNSがない時代のコミュニケーションの場であった投稿欄の熱気がひしひしと伝わってくる。お世辞にもうまいとは言えないイラストは、それゆえにアウトサイダーアート的オーラを放ち、一度見たら忘れられない。
三峯氏自身の天然ぶりもすごいが、多数登場する実在の雑誌や作品を模写で再現する作者の筆力にも感嘆する。合間に挟まれる監修者によるメディア史解説は資料的価値も高い。マンガ文化の周縁で勃発していた出来事を克明に採録した労作にして奇書である。=朝日新聞2024年11月2日掲載