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「日本の選挙制度と1票の較差」書評 明治以来の区割り方式に改革を

評者: 前田健太郎 / 朝⽇新聞掲載:2024年11月16日
日本の選挙制度と1票の較差 著者:川人 貞史 出版社:東京大学出版会 ジャンル:政治

ISBN: 9784130301930
発売⽇: 2024/09/27
サイズ: 21×2cm/296p

「日本の選挙制度と1票の較差」 [著]川人貞史

 民主主義の原則は1人1票だ。ところが、日本の衆議院では人口の少ない選挙区の1票の価値は人口の多い選挙区の2倍に達する。この1票の較差は、なぜ生じるのか。本書では、政府の審議会で選挙区割りに携わった著者が、日本の選挙制度の驚くべき歪(ゆが)みを描き出す。
 従来、日本の1票の較差の原因は都市部への人口集中に合わせた議席の定数配分が行われないことにあるとされてきた。だが、このイメージは正しくない。近年の制度改正の結果、都道府県への定数配分は人口比例で行われているからだ。むしろ、日本の特徴は、1票の較差が全国で2倍以内であれば、同じ都道府県内の選挙区の人口の不均等を認める選挙区割りの制度にある。これは、各州内の選挙区の人口を均等にするアメリカのような国とは大きく異なる。
 では、この制度はどのように生まれたのか。本書は、法律には長らく明文の規定がなかった議席配分と選挙区割りのルールを明治期に遡(さかのぼ)って探る。興味深いことに、都道府県への議席配分は戦前から人口比例で行われていたが、都道府県内の選挙区は既存の行政区画などの事情を考慮して画定され、それが選挙区人口の不均等を生んだ。戦後の高度成長に伴う人口移動への対応が行われなかったことも1票の較差を拡大したが、近年になって都道府県への定数配分が是正された後も較差が残る原因は、この明治以来の区割り方式にある。
 以上から導かれる本書の提言は明快だ。1票の較差を2倍まで許容する現行制度は、選挙無効訴訟に対応したものにすぎず、既に役割を終えている。今後は、都道府県内の選挙区人口の均等化を図るべきだろう。かつては、1票の較差は農村部に基盤を持つ自民党を利するとされることも多かったが、本書はそのような党派的な思考とは全く異なる視点を提示する。本書が政治的な立場を超えて広く読まれ、現実の制度改革に生かされることを願ってやまない。
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かわと・さだふみ 1952年生まれ。東京大、東北大名誉教授。著書に『日本の政党政治 1890-1937年』『議院内閣制』など。