わたしたちが光の速さで進めないなら
私たちの未来をひらく、手をさしだす物語
ここから遠い世界を描いているのに、ここには私たちのための物語がある。
ある村で成年になった者たちが春に始まりの地と呼ばれる場所に向かって巡礼する。一年後に戻ってくるとき、必ず人数は減るという謎が明かされる「巡礼者たちは帰らない」や、遭難したどり着いた星で地球外生命体に助けられ共に暮らした女性の物語「スペクトラム」。死者のマインドが記録、保管される図書館を描いた「館内紛失」などの魅力的な7編の小説たち。そのどれもが“普通”とは違うことで社会や世界と擦れてしまい、ままならなさを抱える人たちが、それでも自らの生を大切に守る姿を、希望の兆す瞬間を、物語はやわらかく受け止めている。この世に完璧なものなんてない。都合のよい世界は存在しない。それでも。痛みを引き受けながら、よりよい世界をたぐり寄せるために、諦めないという覚悟が芯にある。私の外側へ、未来へとひらかれていく思いのする、たおやかな小説集。(toi books・磯上竜也)
破果
殺し屋だって歳を取るし、心もある。韓国発の身に迫るノアール小説。
この小説、面白い!、これに尽きます。
「殺し屋」生活45年の女性が主人公のノアール小説。凄腕のエージェントだった主人公も65歳になり老いを感じ日々万全な状態ではなくとも任務に勤しむ。
ノーベル文学賞で話題になっている韓国文学の懐の広さを感じられます。
個性的なキャラクター、過去と現在の因果、韓国の歴史的な背景、いろいろてんこ盛りで、ラストまでいい緊張感をもっているので、分厚いですが、一気に読めてしまいます。
「老いと仕事」がテーマでもあるので、10代、20代、30代……と節目に読んでみると、読み心地は変わるはず。筆者はもうすぐ40歳なので、10年後にもう一度読むのが楽しみです。
もうすぐにでも映画化して欲しい(そういう噂もある)!。
あと、続編というか若き日の主人公を描いた『破砕』も面白いので、合わせて読んでください。(双子のライオン堂・竹田信弥)
カクテル、ラブ、ゾンビ
異色の韓国ホラー!!
このジャンルの小説は整合性や設定が気になり読むのをあきらめることが多いのですが、最後まで読ませてしまう粗々しく暴力的な魅力がありました。
作品の根底にあるのはフェミニズムと思います。「インビテーション」の顔のない女、「カクテル、ラブ、ゾンビ」の母娘の逡巡する思い。最後に主人公がナイフや銃を手にする姿は、社会の価値観、家父長的家族観に押し込められた女性の黒い反動でしょうか。
男性の私からすると意識していなかっただけにその闇の深さにぞっとしました(もちろん全ての女性が闇深いというわけではないことは承知の上で)
「オーバーラップナイフ、ナイフ」は叙述トリックの使い方が上手く、騙された!と楽しめるエンタメ要素が高い、人気が出そうな短編です。あとがきで作者が「こういう物語を書いていいものだろうか?」と悩んでいますが、そこに悩むところがこの作者の生み出す作品の原点になっているのではないでしょうか。(奈良 蔦屋書店・飯田哲也)
Mo story 子猫のモー
可愛くて優しい!何度も「ひらき」たくなる絵本。
秋と冬の間のある真夜中、モーは窓の外に「笑っている光」を見つけます。急いでマフラーを手に取り、家族にメモを残して出かけるモー。道中様々なハプニングに見舞われますが、フクロウじいさんやヤマガラ夫婦、キタリスの紳士など森の住民たちがモーの手助けをしてくれます。そして最後に出会ったクマ。みんなすごく怖いって言っていたけれど…。モーがとにかく可愛い!そして登場するどうぶつたちがみんな本当に優しい!平和ってこういうことだよね…猫好きもそうじゃない人も大人も子どもも、みんなを優しく包み込んでくれる、毛布のような絵本。美しい装丁もさることながら、魅力的なタッチのイラストは、どのページも額縁に入れて飾りたいくらい素敵。ついつい何度も開いて眺めたくなっちゃいます。(東山堂川徳店・髙橋由莉和)
大人を解放する30歳からの心理学
その弱さも、強さも、全部愛おしい自分。
心理学を簡単に取り入れ、自分の心が少し楽になる。なぜこんなにイライラするのか、そのイライラはネガティブな方向へいき、数珠つなぎに連鎖する。そんな時は、ネガティブ思考の【パターン】を知ることが必要。ポジティブな人もネガティブになることがあるが、ネガティブを最後まで【固執しない】。ポジティブに【受け止める努力】をする。この括弧の中の言葉たちが、今の自分に新しい気付きをくれました。特に【固執しない】ということ。自分のご機嫌は自分でとる。コロナ禍になってからよく聞く言葉ですが、その中に私は、読書タイムが含まれています。自分と向き合える様な本を見つけたり、自分の考えとは逆の本を選び、考え方に偏りが出ないよう自身をブラッシュアップする。そしてこの1冊のような、[心を整える]為に必要な1冊と出会い、今日も母として、1人の人間として、せわしない1日を過ごしている今日この頃です。(東山堂北上店・菅野)
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