韓国映画から見る、激動の韓国近現代史
知ってから観る
韓国映画を観るようになって気が付いたこと。
政治や歴史の題材がかなり多いな、ということでした。1回目では背景がよくわからず、人から聞いたり、解説を読んだりして何回も観ました。しかし、常にモヤモヤしました。本書は、まさにそんな韓国映画と歴史のつながりを、よく知られている映画44本から読み解いていきます。崔氏の解説を読んでいると、今まで観ていた登場人物が、なぜそうしたのか、なぜそんなストーリーになったのか、モヤがかかっていたものが、少しずつあぶりだされてくるようです。でも、これを読んだ後でも、何回も観ないと、きちんと考えないとという思いは消えません。崔氏の解説が誠実で真摯であるぶんだけ、自分も考えながら映画を観ないといけないという感情が、どんどん強くなります。多くの方に読んでもらいたいです。(丸善ジュンク堂書店福岡店・松岡千恵)
父のところに行ってきた
物語に放りこまれて揉まれて
訳者のひとり、趙倫子のあとがきのタイトルは、「すべての「匿名の人びと」に捧げる物語」。作家は書く。「激動の時代になんとか命だけでも生きながらえ、あれほどの多くのことをやりとげたのに、自分は何もしていないと言う。そんな口数の少ない匿名の父を書いているときに、次々とあの瞬間、この瞬間がどうしようもなく立ち現れて、押しとどめることができませんでした」(「作家の言葉」)。この言葉のとおり「父」の人生に立ち現れるさまざまな瞬間・局面に、体ごと引きこまれるようにして一息に読んでしまった。韓国の現代史を生き抜いてきた「父」の人生を、ページをめくるわたしは目撃し、その物語に放りこまれて揉まれて、そして帰り道を忘れて呆然と本を閉じる。時代も国も異なる匿名の人生に、そんなふうに自身がひらかれるのは、作家・申京淑の言葉のもつ力だと思う。(カライモブックス・奥田直美)
北朝鮮に出勤します——開城工業団地で働いた一年間
「北朝鮮の人」というイメージをひらく一冊
南北の経済協力事業で北朝鮮にできた開城(ケソン)工業団地の食堂で栄養士として働いた韓国人女性キム・ミンジュが、工場閉鎖までの約1年間の経験を綴ったノンフィクションエッセイ。 南の化粧品は質が悪いとこき下ろしていたけれどトイレで隠れて使っていた免税店で働く女性や、「一人だけでいるときは純朴そうに笑いながら頭を下げてあいさつし、二人以上になると目を伏せて無表情で通り過ぎ」ていく北の人たち。表面の裏にある、あらゆる自由を制限された体制下での状況を想像することで見えてくるもの。知り、理解していくことが対話への第一歩だと考えさせられます。おいしいものを食べたいし、家族にも食べさせてあげたいと願う、私たちと変わらない市井の人びと。普段ニュースの画面でしか見ることのできない「北朝鮮の人」というイメージをひらく、同じ時代を生きる私たちにとって重要な1冊です。(TOUTEN BOOKSTORE・古賀詩穂子)
韓国の今を映す、12人の輝く瞬間
韓国で刊行5年、14刷の名インタビュー集
ハンギョレ新聞に5年間連載された記事の一部を収録した本書には、社会の片隅で小さくとも確かな光を放つ12人の声が収められている。連載時期は2013年から2018年と少し前だが、各章ごとに、訳者で韓国生活30年の経験を持つライター、伊東順子さんによるミニコラムがあり、当時の時代背景やその後の韓国社会の変化を補足説明してくれる。インタビュイーたちの声からは、「セウォル号」「朴槿恵政権の腐敗と失脚」「加害者としてのベトナム戦争」といった歴史的事件のほか、医師不足の中、過酷な労働環境と闘う医師たち、性的マイノリティー、障害者との共生など今の韓国社会が直面するさまざまな問題が浮き彫りになる。それは韓国だけが抱えている問題ではなく、今の日本にも共通するものだ。社会を変える力を持っているのは巨大な権力だけではない。12人の声に耳を傾けてみると、期待とあきらめが混じっていたそんな考えも確信に変わる気がする。(CHEKCCORI・清水知佐子)
未来散歩練習
手を触れることができるものとしての未来
未来という言葉を見たり聞いたりする機会は多い。それは、日々の会話や、街で見かける広告の中などに登場し、ときに耐えられないほど表面的だったり、陳腐だったりする。にもかかわらず、未来という言葉が消えてなくなることはない。私たちは未来なしには今を生きられないからだ。
物語の中で、「私」は釜山の街を歩きながら、1982年に起きた釜山アメリカ文化院放火事件に関わる人々について考え、彼らが思い描いた未来を再想像する。「彼ら」が練習した未来を「反復する」のだ。そのとき、1982年という過去は、未来を想像するための現在になり、「私」が散歩する現在は、過去を想像するための未来になる。
この本をひらき、ページをめくっていくうちに、未来は、私たちからかけ離れたものとしてでも、使い古された陳腐なものとしてでもなく、今ここにあるもの、真に望むもの、手を触れることができるものとして目のまえにあらわれてくるだろう。(Zero O'Clock・森川真実)
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