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ハン・ガンだけじゃない韓国文学、今から始めるなら? 書店員オススメの5冊

アンダー、サンダー、テンダー

現実を見る心をひらいたもの

 38度線に近い町・坡州(パジュ)で十代を共に過ごし、同じおんぼろバスで高校へ通った6人。その1人である“私”が撮影した短い動画をあいだに挟みながら(動画?と思うかもしれないが本当だ)、彼女ら彼らの十代だったあの頃と三十代になった現在とが交差する。未熟で(アンダー)、激しくて(サンダー)、柔らかく傷つきやすかった(テンダー)十代の日々と、そこに終止符を打つように起きた事件。壊れてしまった“私”は世界を妄想するが、友人たちと再び集まり動画を撮ることで現実を見る心をひらき、撮りためた動画ファイルは“私”の生きていく道をひらく。「私は友人たちの前で素っ裸になって踊っているような気分になった。画面に映ったのは友人たちだったのに、裸になったのは私だった。」チョン・セランが書く群像劇は本当に見事で、どの登場人物も長く心に残る。読者は彼女ら彼らのどこかに自分を感じ、友達や家族を見つけるだろう。(ヒマール・辻川純子)

ワンダーボーイ

「私たちは一人ではない」という希望

 1980年代の軍事独裁政権下の韓国。交通事故をきっかけに人の心を読む能力を得た「ワンダーボーイ」のキム・ジョンフン。この事故で父を亡くしたジョンフンは施設に収容され、軍部によってその能力を政治利用されることになる。施設から脱走し、孤児となったジョンフンが出会った男装の女性、カント兄もまた恋人をスパイ容疑で虐殺された悲しみを背負って生きている。
 ジョンフンは誰もが苦しみや孤独を抱えながら生きていたことを学びながら成長する。
 終盤の「僕たちの夜が暗い理由は、僕たちの宇宙がまだ若くて、依然として成長し続けているからです」という言葉はジョンフン、そして当時の韓国の状況を示しているようにも読める。この小説は民主化宣言がなされた1987年、名もなき大学生たちの言葉で締めくくられる。「二度と過去には戻らない」「私たちは一人ではない」。未来へ向けて歩み始めようとする少年の成長譚としておすすめしたい。(CAVA BOOKS・宮迫憲彦)

日常の言葉たち

あなたの物語の幕を開ける

 差し出された16の単語を鍵に、活動分野の異なる4人がそれぞれの扉を開いていく64篇のエッセイ集。提示されるのは「靴下」「本」など物を指すものから「ひそひそ」「ひんやり」など状態や様子を表すものまで、誰もが生活の中で使う日常の言葉たち。
 「アンニョン」。これは私が文学を入口に韓国の音楽やドラマにも興味を持つようになってすぐに覚えた韓国語の一つだ。おそらく別れの場面で交わされる挨拶、いつも祈りを含んだような慈愛に満ちた響きで口に出される音。私はこの言葉の正確な意味を知る前に、4人の「アンニョン」から言葉の温度を知った。
 この本は順番に読んでもいいし、気になる言葉や書き手から読んでもいい。好きな言葉を選んで自分の文章を書いてみるのもいい。使い慣れた日常の言葉に宿る光、色、音、声、匂い、味、形、温度、記憶を手繰り寄せる過程であなた自身の物語が幕を開け、きっと日常がより愛おしくなるはずだ。(本屋itoito・横)

韓国現代詩選

まばゆい雪原にひそむ、あまたの思い

 どんな書物も、頁をひらくとそこにひとつの景色があらわれる。
 いきなり大海原に放り出されたり、草木の繁りが変化する眩暈に襲われることもあるが、この本をひらいたときは、一瞬、まばゆい雪原に降り立ったかと錯覚した。雪にくっきりと残る足跡のごとき文字列が見知らぬ地名や単語を差し出して、不思議な光を放つのだ。
 隣国ながら、その歴史にわが国とはことなる光と闇を抱く韓国。
 そこで言葉を紡いできた者たちは、なんと鋭く、やさしく、土地に暮らす者たちのいとなみを見つめてきたことだろう。
詩の言葉は、耳触りのよいものばかりではなく時に苛烈だ。さらにこの一冊には、茨木のり子という稀代の言葉の伝え手によるフィルターが強くかかる。その批評性、意図。時空を越えて手渡される、大切なもの。
 隣の芝生は青いというが、隣の雪原も一見まばゆく白い。だが、そこにひそむあまたの思いを掬い取ろうと言葉を追う時間は、とても豊かでほかに代えがたい。(湘南 蔦屋書店・八木寧子)

本の栞にぶら下がる

偶然だけど

 K-bookで本の紹介リレーに参加するため、あれこれあれこれ考えて迷っている間に手にしたのが『本の栞にぶら下がる』。
 韓国文学の訳者が書いた読書エッセイだ。決して韓国文学を紹介しているわけではない。韓国文学の訳者であるという事で、K-bookの棚にあった1冊。日本文学から、海外文学まで古い本たちが幅広く紹介されていく。
 「スピン」から始まり「栞」で終わる。紹介されていくのは、読み継がれてきた古い本ばかりだが、著者自身の経験や記憶と重なり合った紹介文はとても魅力的だ。
 もしかして、本を読むことが好きな人は、普段「ブックガイド」などというジャンルの本を手に取る事はあまりないのではないだろうか?とふと思い至った。紹介のための本を探して、偶然巡り合った本を読んで、また読みたい本が増えた。だから読書は面白い。(東山堂イオンモール前潟盛岡店・神麻子)

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