ISBN: 9784004320289
発売⽇: 2024/08/22
サイズ: 1.1×17.3cm/272p
「介護格差」 [著]結城康博
夏の暑い日、一人暮らしの父の愛犬が死んだ。その1週間後、父も倒れた。入院して一命を取り留めたが、昨日まで元気だった人がふとしたことで要介護生活に陥る。父のサポートを始めた私はそうそう、へぇーと本書から学ぶことばかりだ。
たとえば健康寿命は、男性が73歳、女性が75歳頃。それ以降、買い物をする、支払いをする、通院するなど日常生活の物事が困難になりがちだ。多かれ少なかれ誰かのヘルプがないと以前と同じ生活はできなくなる。
介護は「経済格差」だけでなく、人との繫(つな)がりに左右されるという。自分が要介護者となれば、行動範囲が狭まり外出も減る。他人と言葉をかわす機会も激減するだろう。友人や親族がわざわざ面会に来てくれる人間関係を作っておかないと、孤独を感じる時間が増えるのだ。
驚くことに、在宅での介護がいいと思っても、やっと来てくれたヘルパーさんが75歳以上のケースも希(まれ)ではないそうだ。ヘルパー業界の高齢化が加速し、訪問介護の人材不足は尋常ではない。
介護サービスの「地域間格差」にくわえ、「世代間格差」も大きい。このままでは介護資源が枯渇し、団塊ジュニア世代以降はお金や人との繫がりがある一握りの人しか安心できる介護生活は送れない。そこで著者は「介活」をすすめる。重要ポイントは「支えられ上手」になることだ。挨拶(あいさつ)もしない、横柄な態度をとる人は介護者から敬遠される。積極的に「ありがとう」といえるだろうか。
とはいえ、どんな人でも十分な介護を受けられる社会が望ましい。著者は、ヘルパーの公務員化や介護報酬引き上げ、新たな公費投入など、介護政策や社会保障制度の抜本的な改革を提案する。
読み終えて深刻な介護問題にため息をついた。これはなかなか厳しいぞ。しかし介護は生活である。晩年の充実には若い頃からの人間関係が大切と、本書が示す道標は手がかりになりそうだ。
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ゆうき・やすひろ 1969年生まれ。自治体介護職員などを経て淑徳大教授(社会保障論)。著書に『日本の介護システム』など。