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「就職氷河期世代」書評 特別視を再考 必要な政策とは

評者: 酒井正 / 朝⽇新聞掲載:2024年12月07日
就職氷河期世代-データで読み解く所得・家族形成・格差 (中公新書 2825) 著者:近藤 絢子 出版社:中央公論新社 ジャンル:ビジネス・経済

ISBN: 9784121028259
発売⽇: 2024/10/21
サイズ: 1.5×17.3cm/192p

「就職氷河期世代」 [著]近藤絢子

 1990年代後半から2000年代前半に就職時期を迎えたいわゆる「就職氷河期世代」は約2千万人おり、人口のおよそ6分の1を占める。本書は、その就職氷河期世代をデータによって徹底的に相対化する。
 本書が明らかにするのは次のような事実だ。就職氷河期世代は、その前の世代に比べて初職で正規雇用以外の仕事に就くことが多く、大企業に就職した者の割合も低いが、ポスト氷河期世代(05~09年卒)もそれと同程度に雇用は不安定だった。しかし、就職時の不景気がその後の雇用などに継続的に負の影響を与える「瑕疵(かし)効果」は、近年は弱まっている。
 また、しばしば少子化の原因にされる不安定な雇用だが、実際には就職氷河期世代の後期(99~04年卒)の女性はその前の団塊ジュニア世代よりも多くの子どもを産んでいるという。若年期の雇用状況がとりわけ厳しかった世代において出生率が改善していた事実にこそ、少子化対策のヒントがあるのではないかと著者は指摘する。
 海外では雇用状況が厳しかった地域の若者は少しでも雇用状況の良い地域に移住することで自身が置かれた状況を緩和させようとすることが知られているが、日本でも進学などのタイミングで同様の傾向が見られるという事実も興味深い。どの国でも若者は単に受動的なだけの存在ではないのだ。
 本書に収められたグラフの数々が実に雄弁だ。このようにデータを積み上げられると、就職氷河期世代、特にその後期の世代は日本の労働市場における一つの分水嶺(ぶんすいれい)だった気がする。同時に、従来のように就職氷河期世代だけを対象とした議論に意味があるのか疑問に思えてくる。そればかりか、一つの世代をイメージだけで特別視することは、同じように困難を経験した他の世代をその陰に埋もれさせてしまいかねない。政策ターゲットの再考を迫る本書の意義は大きい。
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こんどう・あやこ 1979年生まれ。東京大社会科学研究所教授。専門は労働経済学。2023年、日本学士院学術奨励賞受賞。