ISBN: 9784296120253
発売⽇: 2024/07/18
サイズ: 18.8×2cm/304p
ISBN: 9784865284348
発売⽇: 2024/10/10
サイズ: 2.5×18.8cm/272p
「テクノ新世 技術は神を超えるか」 [編]日本経済新聞社/「生成AI時代の言語論」[著]大澤真幸 [ゲスト]松尾豊、今井むつみ、秋田喜美
AI関連の議論が日々喧(かまびす)しい。昨年6月から1年間の日本経済新聞の連載を書籍化した『テクノ新世技術は神を超えるか』は、AIを含む最先端の科学技術とそれが今後の人の生き方に与えるインパクトを、レポート、インタビュー、小説で描き出す。
2匹のオスから子を作る(マウスで実現)。センサーや電極でコンピューターが意思(脳信号)を読み取り、サイバー義肢として失われた身体機能を代行、それが脳神経網を書き換え、未知の機能を発現させる。生前に採取した皮膚組織を用いたペットクローン販売……。数多(あまた)の画期的技術と実用例に驚嘆させられる。
「アプリ上の数万人規模の市民の膨大な環境観測記録が数百の学術論文に貢献」「政府や自治体の市民参加型プラットフォームを通して、一定数の賛同を得た市民の提言が議論を経て実現(例:使い捨て容器の段階的規制)」などの海外例は、あらゆる人に科学や政治への参画の可能性を拓(ひら)く、すぐれて民主的な技術活用例といえそうだ。
一方、事故死した息子から精子をとりだし代理母を見つけて孫を作る(不許可)、AIで分身を作って活動機会を拡大し本人の死後も分身が活動を引き継ぎかねないなどの国内外の実例には、際限のない個人の欲を反映した「神を超える」技術の果ての、人権や倫理上の疑問を拭えない。技術革新は人の意識や発想をタイムスパンから変えるが、日進月歩の展開に一般の理解や長期的想像、対応が追いついていない現状に思い至る。
この本で「人手の介入が必要」とされることの一部は、『生成AI時代の言語論』によればAIだけで完結しそうだ。たとえば創造性である。絵画は既によく知られる例だが、脚本や、生徒の興味を引き出す授業案なども、個人の思考よりウェブ上の膨大な集合知から数秒で創造的回答を導き出すチャットGPTの方が優れているとの実例に納得。しかしそれは「剽窃(ひょうせつ)」にはあたらないのか? AIに学習させたデータには管理企業の思惑が投影されていないか? 社会のAI依存が進めば、特定企業の価値判断が世界を牛耳ることになる? そして、疲労知らずで、いつ、誰にでも安定したサービスを提供できる点で医療や教育の分野でも人間を凌駕(りょうが)するという「優秀な」AIの支援を得て人は一体何をするのか?
それすらチャットGPTに訊(たず)ねるのも一興だが、言語化を介して自分の思考を発見する歓(よろこ)びと重要性を説く著者の論考に感動を覚えるほど深く同意。対談、鼎談(ていだん)を含め、生成AIから人間について領域横断的に広く考えさせられる。
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『テクノ新世』は日本経済新聞と電子版に掲載した記事と、作家の円城塔さん、津村記久子さんの小説で構成▽おおさわ・まさち 1958年生まれ。社会学者。個人思想誌『THINKING「O」』主宰。