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「PRIZE」書評 作家と編集者が目指した「至高」

評者: 吉田伸子 / 朝⽇新聞掲載:2025年01月11日
PRIZE―プライズ― 著者:村山 由佳 出版社:文藝春秋 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784163919300
発売⽇: 2025/01/08
サイズ: 13.8×19.5cm/384p

「PRIZE」 [著]村山由佳

 「どうしても、直木賞が欲しい」
 これ、本書の登場人物である人気作家・天羽(あもう)カインの心の叫びなんですが、この帯コピーにうひゃっ!とならない作家と編集者はいないだろう。攻めてるなぁ。
 映像化された作品もあれば、「本屋大賞」を受賞した作品もある。ベストセラー作家の名をほしいままにする天羽カインが、未(いま)だ手にすることが叶(かな)っていないもの、それが直木賞である。本書のメインの登場人物は、その天羽と、彼女とタッグを組み、直木賞を目指す南十字書房の担当編集者・緒沢千紘だ。
 冒頭、サイン会後の食事会シーン。文芸担当専務と小説誌「南十字」の編集長、宣伝部、販売部、それぞれの部長を前に、デザートを後回しにさせた天羽が「反省会」(エグいんだ、これが)を始めると、読み手はぐいっと引き込まれる。そこからは一気。
 〝売れている〟作家である自負と、それでも直木賞を獲(と)れない悔しさ、歯痒(はがゆ)さ。天羽ののたうつような苦悩が、ひりひりと心に刺さる。
 天羽と伴走する緒沢のパートもまたリアルだ。緒沢が天羽と彼女の作品に託す想(おも)い、その一途な情熱。編集者という性(さが)をこれほどまでに掘り下げて描けるのは、作者の観察力(と、担当編集者への信頼)あってこそだろう。
 物語を読み進むうちに、はっ、と気づく。本書のテーマは、小説という〝魔物〟に魅せられた作家と編集者なのだ、と。〝魔物〟の真髄(しんずい)に少しでも近づこう、高みを目指そうとする、二人の物語なのだ、と。
 惜しげなく語られる業界の内幕話(主に、直木賞界隈〈かいわい〉)は、物語を盛り上げるための背景であり、それが本質ではない(もちろん、読みどころではあるのだけど)。だからこそ、ラストの展開が胸に落ちる。
 第172回直木賞の選考会まであと僅(わず)か。選考会の前に読んでも後に読んでも、面白さは保証します。
    ◇
むらやま・ゆか 1964年生まれ。作家。『星々の舟』で直木賞。『風よ あらしよ』で吉川英治文学賞。