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WEST. 桐山照史さん「高校の卒業式、親友にもらった言葉が僕の支えでした」(第4回)

桐山照史さん=武藤奈緒美撮影

【今回のテーマ】「おいしい」だけじゃないおいしいを伝える言葉/頑張っている人にかける言葉

村田沙耶香さんの「俯瞰力」に刺激

 4月から始まった新番組「わたしの日々が、言葉になるまで」。桐山さんはMCの劇団ひとりさんの相棒を務めています。ひとりさんに取材したとき、桐山さんのことを「頼りになる存在」と絶賛されていました。

「ありがたいです。僕はひとりさんの視点とゲストの方々のお話に驚かされるばかりで。ただ楽しんで勉強させてもらっているだけなんです」

 収録に毎回立ち会っていますが、桐山さんはすごく聞き上手だと思います。テレビに出ることに慣れてないゲストの方も、桐山さんの相槌のおかげで緊張がほぐれているように感じます。言葉を「聞く」ということに何か気をつけていることはありますか?

「とくに意識はしてなくて、ただこの場を楽しくしたい、っていつも思っているんです。シンプルに人と会話をすることが好きなので、相槌も自然と多くなるんやと思います」

 今回のゲストは、作家の村田沙耶香さん、俳優の八木莉可子さん、wacciのメンバーでシンガーソングライターの橋口洋平さん。とくに言葉のプロである村田さん、橋口さんのお話で印象的だったことは。

「言葉のプロの方たちは俯瞰で物を見ているな、と感じました。村田さんが、架空の水槽の中に登場人物を入れて、その動きを小説にしているってお話されていて。水槽⁉ってびっくりしましたけど、そういうふうにいつも物事を一歩引いたところから見てるんだろうなって。第7回に『青春とは』というテーマがあるんですけど、僕は単純に青春をキラキラしたものとして捉えてたんですね。でも橋口さんは一歩引いた言葉で表していて。等身大のものしか出せない自分とは、やっぱり違うなって刺激を受けました」

桐山照史さん=武藤奈緒美撮影

〈狭い共感〉の言葉って、強い

 番組前半のテーマは「おいしいを伝える言葉」。今後の食レポに活かせそうな学びはありましたか。

「番組でもお話したんですけど、表現豊かに表そうと頑張っても、結局ゴールが『おいしい』になっちゃうんですよね。あとはすぐ『ヤバい』と言ってしまうのも悩みでした。

 橋口さんがフレンチレストランで食べたりんごの冷製スープのおいしさを『指先がくすぐったくなるような』って身体の感覚でたとえていたんですよ。それを聞いた時に、『うわ、俺はまだ指先がくすぐったくなるくらいのおいしいものを食べたことがない。これからそのおいしさを味わえるんや』っていう喜びと同時に、今度おいしいものを食べた時、体ごと味わってみよう、体にどんな変化が起きるのか観察してみようって思ったんです。

 橋口さんの『指先がくすぐったくなるくらい』のすごいところは、簡単には共感できないところ。僕は、たくさんの人に共感してもらえる言葉で言おうとしていたけど、橋口さんみたいに、刺さる人には刺さる〈狭い共感〉を生む言葉って強くて重い。それも発見でした」

「頑張れ」じゃなくて「顔晴れ」

 後半のテーマは「頑張っている人にかける言葉」。番組では後輩への励ましの仕方が難しい、というお話がありましたが……。

「そうですね。『がんばれ』っていう言葉がプレッシャーになってもいけないし、どこか上から目線なのも気になるし。だから、ドラマでも舞台でも後輩には『楽しんでね』と声をかけることにしています。本人が楽しむことがいちばんやと思うから。

 それから、僕は『がんばれ』を『顔晴れ』と書くようにしています。じつはこの言葉は高校の卒業アルバムの寄せ書きに、親友が書いてくれたもの。その頃、僕はジュニアでアイドルとしてデビューを目指していたけど、なかなかうまくいかなくて、くすぶっていたんです。それを見ていた親友が、『途中で諦めるのもいいと思う。でもその諦めた時もやり切った!って笑顔で終われるように、全力でいってな。照史がどっちに転んでも晴れやかな顔でいられるように祈ってる。顔晴れ(がんばれ)!』って。

 そのあと、すぐにドラマ『ごくせん』に出演が決まって、デビューすることができたんです。僕にとってお守りのような言葉。それ以来、メンバーや共演者の方にも、ここぞというときに『顔晴れ』の言葉を贈ってきました。ドラマ『真夜中のパン屋さん』で共演した土屋太鳳ちゃんもそのひとり。すごく気に入ってくれて、いまだに会うと『あの言葉、今も使わせてもらっています』って言ってくれます」

 ファンの皆さんからはどんな励ましの言葉をもらいたいですか。

「言葉がテーマの番組の取材で、こんな答えはいけないかもしれないですが、僕にとってファンのみなさんは言葉を超えた存在。存在自体が励ましなんです。僕らアイドルの仕事って、ファンのみなさんがいてくださるからこそですから。逆にどうやってこの恩を返していったらいいんだろう、と思います。それこそ、この番組でファンの皆さんを励ませるような言葉を見つけたいです」

桐山照史さん=武藤奈緒美撮影

水のような言葉を見つけたい

 ではあらためて、「わたしの日々が、言葉になるまで」への意気込みを聞かせてください。

「僕は今まで最低限のことしか勉強してこなかったので、この番組で言葉のプロのみなさんのお話を聞いて、すごく刺激をもらっています。目標は、水のようにすっと誰かの心に沁みるような言葉を見つけること。この番組で皆さんと話していて気づいたんですけど、言葉って一方通行じゃない。相手の言葉のもつエネルギーを受けて、自分の言葉のエネルギーが増幅する、そういうかけ算の中で、自分なりの言葉を見つけていきたいです」

 次回のテーマは「褒め言葉と悪口」だそうですが、見どころは。

「文豪たちの見事な悪口がたくさん出てくるところ。どの悪口もユーモアがあって、『え、これって悪口かな?』って考える余地があるんです。今は、言葉が軽くなって『消えろ』とか短絡的な言葉がネットに飛び交って、人を傷つけているじゃないですか。でもこの、練りに練られた悪口って、一度わが身を振り返る時間を与えてくれる。こういう悪口って現代に必要な言葉なんじゃないかなって思います。どうぞお楽しみに!」

【番組情報】
「わたしの日々が、言葉になるまで」(Eテレ、毎週土曜20:45~21:14/再放送 Eテレ 毎週木曜14:35~15:04/配信 NHKプラス https://www.nhk.jp/p/ts/MK4VKM4JJY/plus/)。次回の放送は5月10日(土)20:45~。「究極のほめ言葉/見事な悪口」を探究します。次回の「あの人の〈わたしの日々が、言葉になるまで〉」は小説家の村田沙耶香さんが登場予定!