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本屋大賞に凪良ゆうさん「汝、星のごとく」 涙ながらに「すべての方が輝ける星」(発表会詳報)

2023年本屋大賞を受賞し、書店員らと記念撮影する凪良ゆうさん=吉野太一郎撮影

「どんな人生でもドラマが絶対ある」

 (好書好日の記事から)凪良ゆうさん「汝、星のごとく」インタビュー 生き方貫き、「正しくないこと」すがすがしく

 (朝日新聞書評)「汝、星のごとく」血に縛られる人生 「正解」とは

 『汝、星のごとく』は、瀬戸内の小さな島で出会った高校生の男女の、出会いから15年の歳月を描いた恋愛小説。地縁、血縁に足を取られながら、人生の「普通」や「あたり前」、そして「正解」とは何なのかを問いかける作品です

 凪良さんは「人生の大きな岐路がたくさんある年代。学生から社会へ出て行き、結婚、出産、仕事のつまずきや夢や希望、いろんなものが詰まっている。選ぶことは捨てることでもある。自分の人生を自分で選んで生きていく、そういうメッセージを込めています。平凡な人というのはいないと思っていて、どんな人生でもその人なりのドラマが絶対にある。そのドラマを描いていくことが小説の一つの形だと思っているので、今作は丁寧に人物一人一人を描き出しました」と話しました。

涙ながらにスピーチする凪良ゆうさん=吉野太一郎撮影

 凪良さんは2020年の『流浪の月』に続き2度目の受賞。「『汝、星のごとく』が出版されたときに、(お礼を伝えようと)北から南までたくさんの書店を訪れました。(3年前は新型コロナ禍で授賞式の)会場にはいけなかったけれど、こんなに多くの書店員さんが応援してくれているなら、もうこれでいいって納得したんです。今日再び、受賞者としてこの場に立っていることが夢のようですが、書店員さんお一人お一人の力が作ってくださった現実です。『汝、星のごとく』を応援してくださったすべての方が、私にとっての輝ける星です」と涙ながらにスピーチしました。

 2023年本屋大賞は、2021年12月から2022年11月末までに刊行された日本の小説が対象。昨年12月1日から今年1月4日まで一次投票を行い、全国の471書店、書店員615人の投票で選ばれた上位10作品がノミネートされていました。

2位以下のノミネート作品

2. 安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』(集英社)

3. 一穂ミチ『光のとこにいてね』(文藝春秋)

4. 呉勝浩『爆弾』(講談社)

5. 青山美智子『月の立つ林で』(ポプラ社)

6. 小川哲『君のクイズ』(朝日新聞出版)

7. 夕木春央『方舟』(講談社)

8. 町田そのこ『宙ごはん』(小学館)

9. 寺地はるな『川のほとりに立つ者は』(双葉社)

10. 結城真一郎『#真相をお話しします』(新潮社)

翻訳小説部門は「われら闇より天を見る」

『われら闇より天を見る』翻訳者の鈴木恵さん

 また、翻訳小説部門の大賞は、クリス・ウィタカーさんの『われら闇より天を見る』(早川書房)に決まりました。

 アメリカ・カリフォルニア州の海沿いの街を舞台に、一人の少女が命を落とした30年前の事件を巡って、自称無法者の少女ダッチェスらが真相究明に挑むミステリーです。

 翻訳者の鈴木恵さんは「素晴らしい作品を訳すチャンスを頂いた幸運を身に染みて感じています。この作品は年末のミステリーランキング3冠を獲得しましたが、ブレークのきっかけは先日亡くなった北上次郎さんが真っ先に推薦文を書いて下さったからです。ジャンルで言えばミステリー小説ですが、世の中のすべてを敵に回して戦おうとする13歳の少女の成長の物語であり、過ちを犯した男の贖罪の物語でもあります。日本の読者の心にも、長く残ると思います」と謝辞を述べました。

ビデオメッセージを寄せた『われら闇より天を見る』著者クリス・ウィタカーさん

 作者のクリス・ウィタカーさんはビデオメッセージを寄せ、20年前に強盗に襲われ刺傷したショックから、自分自身のセラピーとして小説を書き始めたことを明らかにしました。

 「私はただ自分の気持ちを書き出して、自分の身に起こった悪いことの影で生きている、もがき苦しんでいる女の子(ダッチェス)に重ねたのです。自分の人生が変わるようにと願いながら。この小説は、どんなに人生が困難であっても、ポジティブな変化を起こすことは可能であることを思い出させてくれる物語でもあります。このような賞を頂けたのは皆様のご支援のたまものです」と述べました。

超発掘本! に「おちくぼ姫」

角川文庫日文編集長の佐藤愛歌さん(左)

 ジャンルや新旧を問わず書店員が「売りたい」と思う本を選ぶ2023年の「超発掘本!」には、田辺聖子さんの『おちくぼ姫』(角川文庫)が選ばれました。

 「落窪物語」を題材に、貴族出身のおちくぼ姫と青年貴公子の恋を描いた作品。角川文庫日文編集長の佐藤愛歌さんが「伯母は日本の古典を若い人に読んでもらいたいと常日頃申しており、古典の面白さを分かりやすく伝えるため、特に若い方に向けてたくさんの作品を残しました。もし伯母が推薦コメントを読んだら、大変に喜んだと思います」という、姪の田辺美奈さんのコメントを代読しました。

20回目、書店員の参加も再開

20回目の本屋大賞を記念し、会場に掲げられた歴代受賞作家らのパネル

 今年で20回目の節目となる本屋大賞の発表会は、新型コロナを受けて中止していた書店員たちの参加を4年ぶりに再開。会場には歴代受賞作家らからの祝賀メッセージがパネル展示されました。

2022年の本屋大賞受賞者、逢坂冬馬さん(右)

 昨年の第19回に『同志少女よ、敵を撃て』で大賞を受賞した逢坂冬馬さんが、ゲストプレゼンターとして凪良さんに花束を贈呈。「本屋大賞に期待されているのは権威ではなく、親しみ。読者に近い書店員の皆さんが一人一人持ち寄って、いわば口コミ的に優れた小説を決めているならばいい小説なのだろうという『親しみの集合体』がここまで成長させたのだと思う。本屋大賞の発表は日本小説界の大変なお祭りだから、そこで(明日)村上春樹さんが新作を出すとしても何も恐れることはないわけです。なぜなら本屋さんにたくさん人が来るわけですからね」と祝辞を述べて会場を沸かせました。