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村山由佳さん「PRIZE―プライズ―」どんな本? 作家の承認欲求描く「今、私は本屋大賞が欲しい」

『PRIZE―プライズ―』あらすじ

 村山由佳さんの『PRIZE―プライズ―』は2025年1月刊行。自身を彷彿とさせる売れっ子作家・天羽(あもう)カインが主人公。直木賞候補に選ばれながらも落ち続けるカインに、やがて担当編集・緒沢千紘も取り込まれ、一心同体となって直木賞を目指します。

 天羽(あもう)カインはライトノベルの新人賞からデビューし、本を出せばベストセラーという人気作家だ。書店員の投票で選ばれる本屋大賞を受賞するも、作家が選ぶ文学賞には縁が無い。あるときは「人間が書けていない」と言われ、別の作品では「人間にはもう少しわからなさが欲しい」と否定され、落選を重ねてきた。これらの講評は選考会の決まり文句ではあるが、言われた方は納得がいかない。選考委員に募らせた憎悪は、編集者への八つ当たりとなり、評価されない苦しさと絶望が激しい怒りとなって噴き出す。
 若手編集者と、旧知の編集長の視点も交え、作家が編集者と共闘しながら物語を生み出していく過程で、1行の完成度を求める貪欲(どんよく)さが美しくも恐ろしく描かれる。村山由佳さん「PRIZE―プライズ―」直木賞作家が描く選考の裏側と、創作の本質

『PRIZE―プライズ―』作者はこう語った

村山由佳さん=撮影・篠塚ようこ

 村山さんは、直木賞や承認欲求をテーマに描いた背景について、好書好日のインタビューで以下のように語っています。

 直木賞ありきだったわけではないんです。小説の構想を編集者と練るなかで、ふと私にとって承認欲求がいかに度し難いものであるか、という話になって。

――村山さんにも承認欲求があるんですか? 直木賞を受賞し、その後も数々の文芸賞に輝き、十分に認められている存在だと思うのですが……。

 いえいえ、なんでバレないんだろう、いつバレるんだろう、とずっと思っているんです。たとえるならば、先生にウケがいい作文を書くのが上手なだけでこの世界を渡ってきたんじゃないか、という思いが拭えなくて。それともうひとつ、自分の望むものを書けたときに、それを望む形で認められたい、という承認欲求もあります。そんな話を編集者としていて、じゃあ作家にとっての承認欲求や自己実現を具体的に書くのであれば、それはもう直木賞でしょう、となりました。
村山由佳さん「PRIZE」インタビュー 直木賞を受賞しても、本屋大賞が欲しい。「果てのない承認欲求こそ小説の源」

 また直木賞など数々の文芸賞を受賞している村山さんは、書店員の投票によって決まる本屋大賞への想いも明かしていました。

――書店員や読者から認められることと、文壇から認められることの違いを、村山さん自身はどう感じていらっしゃいますか。

 逆に今、私は本屋大賞が欲しいです(笑)。書店員の方々に「今売りたい本」とか、「読者に届けたい本だ」って言ってもらえたらどんなに幸せでしょう。要するに、隣の芝生は青く見えるってことなんだろうと思います。果てしがないんです。村山由佳さん「PRIZE」インタビュー 直木賞を受賞しても、本屋大賞が欲しい。「果てのない承認欲求こそ小説の源」

『PRIZE―プライズ―』プロはこう読んだ

 書評家の吉田伸子さんは、「好書好日」に掲載された朝日新聞書評で、冒頭から「読み手はぐいっと引き込まれる。そこからは一気」として、以下のように読み解いています。

 物語を読み進むうちに、はっ、と気づく。本書のテーマは、小説という〝魔物〟に魅せられた作家と編集者なのだ、と。〝魔物〟の真髄(しんずい)に少しでも近づこう、高みを目指そうとする、二人の物語なのだ、と。

 惜しげなく語られる業界の内幕話(主に、直木賞界隈〈かいわい〉)は、物語を盛り上げるための背景であり、それが本質ではない(もちろん、読みどころではあるのだけど)。だからこそ、ラストの展開が胸に落ちる。「PRIZE」書評 作家と編集者が目指した「至高」

村山由佳さんはこんな人

 村山由佳さんは1964年、東京都生まれ。立教大学文学部卒業。93年『天使の卵 エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞、09年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞・島清恋愛文学賞・柴田錬三郎賞、21年『風よ あらしよ』で吉川英治文学賞を受賞。「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズ、『ミルク・アンド・ハニー』『ある愛の寓話』『Row&Row』『二人キリ』など著書多数。

 『PRIZE―プライズ―』は、2026年本屋大賞にノミネートされました。村上さんは、発刊に際し「自らの承認欲求をごまかさず、欲しいものは欲しい!と剥き出しにする作家・天羽下院を、最後にはかっこいいと思うようになりました。誰かに認められたいと心の底から願ったこと――あなたは、ありますか?」とメッセージを寄せています。

好書好日の記事から

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