倉科カナさん 「愛の言葉はシンプルに」と思っていたけれど(第17回)
【今回のテーマ】 好きです!付き合ってください、だけじゃない告白の言葉
今回のテーマは、「好きです!付き合ってください、だけじゃない告白の言葉」。MCの劇団ひとりさん、WEST.の桐山照史さん、シンガーソングライターの吉澤嘉代子さん、作家の金原ひとみさんと、それぞれの告白エピソードを披露し合いましたが、倉科さんは告白するのもされるのも直球がいいとお話されていましたね。
「相手からの告白の場合、遠回しな言葉だと『今のは好きってこと? でも勘違いだったら恥ずかしい』と思ってしまいます。だからこそ『好きです!付き合ってください』というシンプルな伝え方がいちばんだと思っていたんです。正直にそれを言ったら『でもそれだと今日の回終わっちゃう』って劇団ひとりさんを困らせちゃいました(笑)。けれど、この番組でみなさんといろんな告白の言葉を話し合ううちに、言葉の深さや奥行きを知って、同じ『好き』って気持ちを伝えるにしてもこんなに違うんだって感激しました。自分ももっと言葉を使いこなせるようになって、もっと相手に届く言葉を見つけたいな」
倉科さんはこれまで数々の告白のシーンを演じてこられたと思いますが、どうやって気持ちを作っていますか。
「たとえ順撮り(ストーリーの順番通りに撮ること)じゃなくても、台本を読めばどんなことがあって、どんなふうに気持ちが高まって、この告白になったのかが書かれてあるので、そこで気持ちを作っていきます。自分の役柄をつかんでその場に立つことや、相手役の方の演技に呼応していくことも大切です。
もうひとつ大事なことは、ときめくこと。あまりにも仕事が忙しかったり、考えることが多すぎると、心が硬くなってときめきにくくなってしまうんです。そういうときは、映画やドラマ、アニメをお酒をのみながら観て、テレビに向かって『なんでなんだよ~!』と床を叩いて泣いてみたり、笑ってみたり、感情を思い切り解放しています。すると、翌朝お仕事に向かう時にはすっきり。心も柔らかくなって、ゆとりができ、そのゆとりにときめきが入ってくるように思います。私のストレス発散法です」
たとえばどんな作品でストレス発散していますか。
「アニメ版の『葬送のフリーレン』と『夏目友人帳』はもう何度も観てそのたびに泣いています。ねえ、それ何回も観たやつじゃん!って自分でも思うんですけど、やっぱり泣けるんですよねぇ」
番組では坂元裕二さん脚本の朗読劇『往復書簡 初恋と不倫』のなかのヒロイン・三崎明希のセリフが引用されました。こちらは倉科さんが実際に演じた役だそうですね。
「はい。坂元さんの言葉って本当にパワーがあるんですよ。坂元さんって日常にあふれるものを言葉にするのが素晴らしいなって毎回思います。番組で引用されたセリフのように『急めな階段を降りるとき』や『切手をまっすぐ貼らなきゃいけないとき』なんて絶対みんなにもわかる日常の出来事じゃないですか。だからすごく自分の中にもすとんと落ちてくるんです。だから余計な味つけはせず、この素敵な言葉たちを一言一句間違わずに皆さんに伝えることが私の役目だと思って、とにかく噛まないように、ミスしないように、を気をつけました。お芝居のなかでいちばん難しいのが朗読劇だと思います」
それは、身振り手振りでごまかせないからでしょうか。
「それもありますし、朗読劇って舞台で本を持って、それを読み上げるので、ほかのお芝居とちがってセリフを覚えないんですよ。ほかのお芝居だと、覚えて自分の中に役を落とし込んだうえで、相手と顔を見合わせながらセリフのやりとりをするじゃないですか。でも、朗読劇では、客席を向いて座り、隣の相手役の方とお互いを見ずに会話する。お願いだからセリフを覚えさせてください、演技させてください、って思っちゃうくらい(笑)。
その意味で、朗読劇こそ、いちばん言葉に重きが置かれた演劇様式かもしれません。言葉の中だけで、感情の動きや動作まで表現しなきゃいけない。難しくも面白いところです」
他の方のお話で気になったところはありますか。
「金原ひとみさんの小説『ナチュラルボーンチキン』のなかの『僕は生まれてから今までで一番美味しかったものが、蜂蜜漬けのナッツをかけたハーゲンダッツのバニラアイスだったんですけど、そういう感じの好きです』ってセリフが紹介されて、すごくすてきでした。金原さんが、食べものは味や食感がみんなの共通認識としてあるから、気持ちを表しやすいって教えてくださったんですが、そういえば、『初恋と不倫』でもそういうシーンを坂元さんが書いていたことに気づきました。
私が演じた三崎という女の子が、相手の男の子に『海老名のサービスエリアのラーメンに胡椒をたっぷりまんべんなくかけたらおいしいですよ』ってメールすると、男の子が『昨日、海老名SAのラーメンに自転車漕いで行ってみました。胡椒をたっぷりまんべんなくかけてみました。おいしかったです』というような返信が来るんです。それだけで、2人の距離感や男の子の思いがすごく伝わって……。これも言ってみれば告白の言葉といえるかもしれませんね。
今回、告白がテーマだったので、金原さんと吉澤さんと私の3人で女子会みたいに盛り上がっちゃいました。それもすごく楽しかったです」
今回学んだ「告白の言葉」、倉科さんのプライベートに生かせそうですか。
「みなさんのお話を聞いていて、私がシンプルな言葉でしか気持ちを伝えてこなかったのには、それに見合う自分ではないという自信のなさがあったのかなと思いました。シンプルな表現にこだわったのは、『嘘くさくなりたくない』という気持ちがあったからなんですけど、金原さんや吉澤さん、言葉のプロのみなさんのお話を聞いていると、美しいなって思う言葉がいくつも出てきて。こういうふうに伝えられたら、気持ちがもっと深く伝えられるんだなって感じました。私もそういった言葉を使いたいし、それが練りに練って用意したものでもいいけれど、ぱっと出てきたら、なお素敵。『ひびこと』のオンエアを観て復習をして、もっと自分の言葉を豊かにしていきたいです」
【番組情報】
「わたしの日々が、言葉になるまで」(Eテレ、毎週土曜20:45~21:14/再放送 Eテレ 毎週木曜14:35~15:04/配信 NHKプラス https://www.nhk.jp/p/ts/MK4VKM4JJY/plus/)。次回の放送は9月20日(土)20:45~。