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大塚健太さん・柴田ケイコさんの絵本「ハムスたんていと かいとうニャー」 名探偵と大泥棒が“にゃぞにゃぞ”で対決!

『ハムスたんていと かいとうニャー』(Gakken)より

絵と文、刺激し合って一つの作品に

――「ハムスたんてい」と「かいとうニャー」という、ネーミングもキャラクターもクセのある2匹が、なぞなぞ対決をする楽しい作品ですが、作品のアイデアはどのように生まれたのでしょうか?

大塚健太(以下、大塚):「にゃぞにゃぞ」という言葉から発想しました。猫語って「な」が「にゃ」になりますよね。そこから猫が言ったら面白い言葉はないかと考えて、「なぞなぞ」や「バナナ」には「な」が二つ入っていて、面白そうだなと思ったのがきっかけです。語感というか、読み聞かせのときに「にゃぞにゃぞ」って言うのが大変で面白いなと思って(笑)。そこから登場人物のキャラクターを考えていきました。

――柴田さんは、最初にお話を読んでどんな印象でしたか? キャラクターを描くのに大塚さんからリクエストはありましたか?

柴田ケイコ(以下、柴田):今回は「なぞなぞ」なんだと思って、「なぞなぞ」は初挑戦でした。最初にキャラ設定をしたんですけど、大塚さんはラフ原稿に絵を描いてくれるんです。

大塚:あ、そうですね。すいません。

柴田:いえいえ。その絵で成立しちゃうくらいかわいいので、それにつられないように気をつけながら描きました(笑)。最初は、ハムスもニャーもかわいい感じで考えていたんですけど、助手のジャンガリーがかわいい感じなので、ハムスは、もうちょっと格式があるような感じにしたいなと思って、表情を変えてみるなどしました。ニャーは泥棒なので、縞々の服にしたいなと思って描いたら、一発でほぼOKでしたね。

『ハムスたんていと かいとうニャー』(Gakken)

――大塚さんはできあがってきたキャラクターを見て、いかがでしたか?

大塚:僕の中では、こういうキャラというのを決めてなかったので、どんなものが出てくるのか楽しみでした。僕も絵があったほうがキャラの性格もイメージしやすいので、柴田さんの絵を見て、口調など変えたところもあります。ニャーが地団駄を踏むところも、ちょっと人間臭い感じが面白くて、付け加えました。やっぱり、絵と文が一緒になって絵本なので、お互いに刺激し合って作り上げていくのが楽しいですね。柴田さん、今までハムスターって描いてなかったですよね?

柴田:ハムスターは初めてでした。

大塚:そうですよね。柴田さんが描いたことがないキャラがいいなと思ったのと、ニャーのキャラが強いので、それに負けないキャラとして、ハムスターがいいんじゃないかと。ハムス探偵っていう、語呂もいいし。

柴田:ハムスターを描くのが意外と難しくて。ネズミだけど、形はいわゆるネズミでもない。かわいくするのは簡単なんですけど、逆にかわいくならないようにするにはどうしたらいいんだろうって。そのバランスが悩ましかったですね。

大塚:かわいくならなくてもいいんだ、なるほどね。

柴田:ハムスの机周りに何を置くかとか、怪盗がどこから来て、どこへ逃げていくのか、探偵事務所の部屋の構造も考えました。最初に手紙が届くのも、どの窓から矢が飛んできて、どこの壁に刺さるのか。絵には描き込まないけれど、今後、シリーズとして続くかもしれないので、ちぐはぐになったらいけないなと思って。

大塚:そうですね。

柴田:ひまわりの種を盗むのも、ここにしようかなとかね。ハムスターがくるくる走る「回し車」は、どうしても入れたくて描きました。そういうのを考えるのが楽しかったですね。

絵本で見せる「なぞなぞ」の難しさ

――ハムス探偵が答えを考えるときに、ひまわりの種を「がりがり ぼりぼり」かじるページはインパクトがありました。お気に入りのページはありますか?

『ハムスたんていと かいとうニャー』(Gakken)より

大塚:僕も「がりがり ぼりぼり」好きです。最初はあのページ、見開きじゃなくて、半ページだったんですよね。でも柴田さんの絵を見て、やっぱり見開きでドバッと見せたいなと思って、お話の展開をちょこっと変えて、なんとか見開きで見せられるようにしました。なので、あそこの部分は好きですね。かわいいしね。

柴田:私は、ニャーがひまわりの種をバーって巻くシーン。描き甲斐がありました(笑)。最初、もっと種が少なかったんですけど、直しが入って、もっともっといっぱい散らかすことに。あのときの、ハムスとジャンガリーの顔がよく描けたと思います。散らかったところを見て「ガーン」っていう表情がね。

大塚:そう、あそこはよかったです。

『ハムスたんていと かいとうニャー』(Gakken)より

柴田:あと、「なぞなぞ」は初めてのチャレンジだったので、どういうふうに描いたらいいのか、すごく勉強になりました。なぞなぞの問題を絵に描くには、ある程度答えがわかるような絵にしないと子どもたちはわからないので、どこまで描くか、匙加減が難しかったですね。例えば、答えが「バナナ」だと、バナナそのものを描いたらすぐわかってしまうから、フォルムだけにするとか。そのあたりが、すごく考えたところですね。

『ハムスたんていと かいとうニャー』(Gakken)より

大塚:僕も、答えを考えるところで読むリズムが崩れてしまいがちなので、子どもたちが考える時間はあっても、リズムが崩れないようにしました。展開や文章量は、いつも以上に気を使いましたね。

――お気に入りや自分に似ているキャラクターはいますか?

大塚:僕は、ジャンガリーに似ています。すぐ慌てて、オロオロしちゃう感じ。実際に、ジャンガリアンハムスターを飼っていたこともあるので、好きですね。

柴田:私は猫派なので、やっぱりニャーが気に入ってます。全然うまいこといかない感じのニャーがいいですね。地団駄踏むところもすごい好き。騒がしいヤツって感じが。ニャーがいないと面白さが出てこないと思うし、お話の中でもいい役目ですよね。ニャーは今後も出てくるんですかね?

大塚:どうなんですかね。描きたいですか?

柴田:出てこないと寂しいなって。それくらい好きですね。

大塚:うん。またひと騒動起こしてほしいですよね。

柴田:楽しみですね。

共作を重ねて感じた、絵本作家としてのお互いの魅力

――おふたりは今までも何作か作品をご一緒されていますが、最初はどんな印象でしたか?

大塚:最初に表紙の絵を拝見したときは、超衝撃的でした。一度見たら忘れないというか。想像を超えてきた感じだったので。

柴田:うれしいです。原稿をいただいて、早く描きたくてしょうがなかったんです。最後の落とし方がすっごくうまいなと思って、早く絵にしたいって思ったのを今でもよく覚えています。

大塚:柴田さんは、お話を何倍も面白くしてくれるというか、ただ具現化するだけじゃなくて、そこにいくつも面白さを乗っけてくれるので、本当に信頼しています。

柴田:うれしい! そう言っていただけると、今日1日頑張れます。

大塚:表情が抜群に面白くて、話の行間を絵で埋めてくれるというか。動物だけど、人間臭さをにじみ出させるのも上手ですよね。今までの作品は全部、柴田さんだからこそできたっていう思いは強いですね。

柴田:ありがとうございます。編集者さんにもそんなに褒めてもらえたことがないのでうれしいです(笑)。

大塚健太さん、柴田ケイコさんがこれまでにタッグを組んだ絵本の数々。左上から時計回りに『おにゃけ』『でんにゃ』『とびません。』『なまけていません。』『うごきません。』(いずれもパイ インターナショナル)

――柴田さんが思う大塚さんの魅力はどんなところですか?

柴田:うらやましいの塊です。文章がどんどん湧いてきて、語呂がいいので読みやすいし、覚えやすいし。なんでこんなに言葉が出てくるんだろうって。子どもが覚えたくなる言葉を生み出すって、結構難しいと思うんですよ。ちょっとキャッチーな感じの面白い言葉って、子どもたちはすごい好きなので、それを生み出せるっていうのは、才能だなと思って、うらやましいです。

大塚:いやいや。

柴田:編集者さんに原稿を出すときも、ひとつだけじゃなくて、何案も出すって聞きました。

大塚:それは、臆病なだけ。ビビリなんです。

柴田:本当に? でも、それができるっていうのがすごい。私なんか、一個作ったら本当にエネルギーを消失してしまうので、2つも出せるってどういうことなんだろうって。

大塚:(笑)

柴田:お話を作るってゼロからなので、すごいエネルギーだと思うんですよ。絵はね、お話の肉付けっていう感覚なので。だから、すごくうらやましいです。

――柴田さんはご自身でお話も作るときと、絵だけを描くときで、違いはありますか?

柴田:ありますね。絵だけを描くときは、お話を作っている方に対して責任感があるので、この文章に対してどういうイメージがあるのかなとか、自由に描いていいものか、作家さんのイメージに寄せたほうがいいのか、考えてしまいます。編集者さんが自由に描いてくださいと言ってくれるとわりと自由に描けますが、どうしても考えちゃって。自分の作品は、また別の責任感があるので、それぞれの楽しさや苦しさはありますね。

大塚:僕は、どの作家さんでもそうですが、絵を担当される作家さんにいかに自由に楽しく描いてもらうかが大事かなと思っています。文章を書いた人の思いをのっけなきゃいけないって変に義務感があると、自由に描けなくなってしまうと思うので、あんまりこだわらない人という印象にしたい。なんでもいいですよっていう感じの空気感をなるべく出そうと心がけています。

柴田:いつも自由にって言ってくださるので、文章が届くのも楽しみにしています。

大塚:柴田さんは動物がいいですよね。

柴田:動物を描くのは好きですね。人間になっちゃうと、難しいお題になっちゃう感じがして恐縮してしまう。大塚さんは、絵で表現してくださいねっていうような文章なんですよね。間があるというか。だから、描きがいがあって、毎回、楽しみにしています。

大塚さんお手製のペープサート。裏表でそれぞれのキャラクターの表情が異なるので、読み聞かせにも活躍してくれそうです

絵本作り、どうしてます? 柴田さんが大塚さんにインタビュー!

――お互いに聞いてみたいことはありますか?

柴田:私、大塚さんに聞きたいです。絵本のお話を作るときは、出版社から依頼がきてから作り始めますか? それとも、先に作っておいて、その中から選ぶ感じですか?

大塚:両パターン、半々ぐらいかな。

柴田:お話は毎日、常に考えている感じなんですか?

大塚:毎日はないですね。先ほど言ったように、臆病でビビりなので、1つ出して「これどうですか?」と言う勇気がないんです。だから、いくつか案を持っていったりします。

柴田:すごい! お話のストックから出版社に合わせて、これを選ぼうって、自分の中で決めているんですか?

大塚:なんとなく決めてはいますけど、そのときご縁があった人、タイミングとか巡り合わせみたいなことも大事にしてますね。

柴田:なるほど。お話を作るときは、先にテーマを決めますか? それとも、なんとなくこういう面白い話を作りたいとか、今回の「にゃぞにゃぞ」から考えるみたいな感じなのか、その時々ですか?

大塚:そのときによってですね。でも、テーマから先に考えるのは苦手です。

柴田:私も苦手。

大塚:テーマに関係なく作って、そのテーマだったらこの作品がいいんじゃないか、というのはあります。そのほうが得意というか、やりやすいというか。テーマに引きずられちゃうと、楽しく書けなかったりもするので。

柴田:縛られる感じがしますよね。

大塚:そうですね。そこはなるべく意識しないように、テーマがあったとしても、なるべく意識しないように書かないと、自由に書けないので。

柴田:私も、テーマを決めると、面白さが半減しちゃって、すごい硬くなっちゃうんです。だから私の場合、この場面を描きたいという絵が浮かんで、そこにもっていくように作ることが多いです。それはそれで、こじつけみたいになっちゃったりして苦労するんですけどね。

――絵本を作るときに、心がけていることはありますか?

大塚:やっぱり読み手である子どもたちのことはいつも頭に浮かべながら作っています。自分で何度も読んでいると慣れてしまって、わからなくなってくるので、初めてこの作品を読む子どもたちの気持ちになって、毎回読むようにしています。柴田さんも言ってくださいましたが、まどろっこしさがあって読みにくいと、どうしてもそこで止まってしまうので、テンポやリズムなど、読みやすさは、いつも心がけています。あと、書いていて楽しいっていうのは一番大事にしているかな。たまに、「あれ?楽しくないぞ」って思うときがあるんですよね。お話は成立していても、自分がワクワクしない、楽しくないなって思うと、一度やめて考え直しています。

柴田:私も絵本を通じて読者の人に楽しんでもらいたい、面白がってほしい、ワクワクしてほしいって思っています。こういう世界もあるんだってことを自分の絵や絵本で知ってほしいなって。絵本をあまり読まない子でも、私の作品を読んで、絵本って結構面白いじゃんって思ってもらえるとうれしいです。美しい世界を絵本で描きたい人もいれば、すごい怖い絵本を描きたい人もいると思いますが、私は面白くて、この先どうなるんだろうとか、なんかすごい顔だねとか、あまり身にならないかもしれないけど、なんか楽しかったっていうようなお話を作れたら万々歳です。でも、そのためにはやっぱり自分が楽しまないといけないし、じゃあ自分はどんなお話が面白いんだろうって、ずっと自問自答しながら描いています。そこをブレずに、描き続けていきたいなと思っています。