ISBN: 9784766430349
発売⽇: 2025/05/20
サイズ: 14.8×21cm/352p
「スコットランドと〈開かれた〉ナショナリズム」 [著]髙橋誠
1970年代半ば、同級生の女子たちはスコットランド出身のポップグループ、ベイ・シティ・ローラーズに夢中だった。トレードマークのタータンチェックをあしらったグッズが教室にあふれた。
2014年、再び〝タータンチェックの熱狂〟をニュースで目にすることになる。今度は本家本元、スコットランドの出来事だ。英国からの独立を問う住民投票が行われた。独立賛成派はタータンチェックのマフラーを掲げながら独立を訴えていた(結局、独立反対派が勝利した)。
私はその頃、沖縄で米軍基地問題を取材していた。スコットランド独立運動は、自己決定権を奪われた沖縄の姿と重なった。独立を目指す背景には沖縄同様、イングランドから受けてきた差別の歴史があるのだ。
一方で、独立運動を後押しするナショナリズムへの警戒心も私の中で働いたのは事実だ。それは排外主義を招くことにならないのか――。
そうした疑問に対し、本書は「経済的競争と社会的連帯の両立を可能とする制度」こそがスコットランドナショナリズムの核心であると応答する。原動力となるのは「包摂」だ。排他的なナショナリズムと一線を画し、例えば移民の受け入れに関しても、移民労働力を社会に対する「貢献」だと捉え、「多様性は強み」だと主張する。だからこそ独立住民投票キャンペーンには、多様なエスニックグループも参加したという。独立派の移民受け入れ政策は、持続可能な経済成長のために必要不可欠なものとして位置づけられているのだ。
そのうえで独立派は今なお、移民政策以外にも福祉の独自性、EU再加入などを訴えている。
学術書という性格上、難解に感じられる部分も少なくない。だが、多色に編まれたタータンチェックのようなスコットランドの歴史をていねいに紐解(ひもと)くことで、本書は「開かれた」ナショナリズムの可能性を明示するのだ。
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たかはし・まこと 1985年生まれ。神田外語大講師。博士(社会学)。専門はナショナリズム研究、スコットランド政治社会論。