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「舞妓さんちのまかないさん」㉚書評 がんばる友のため台所に立って

評者: 野矢茂樹 / 朝⽇新聞掲載:2025年08月02日
舞妓さんちのまかないさん (30) (少年サンデーコミックススペシャル) 著者:小山 愛子 出版社:小学館 ジャンル:コミック・ラノベ・BL

ISBN: 9784098541232
発売⽇: 2025/06/12
サイズ: 12.7×18cm/144p

「舞妓さんちのまかないさん」㉚ [著]小山愛子

 さあ、ほめまくるぞ。コミック全三十巻がついに完結。すみれ、キヨ、健太という三人の幼なじみの話である(この三人以外の話もいいんだけどね)。青森からすみれとキヨが舞妓(まいこ)になるために京都に来る。すみれは百年に一度の逸材とさえ言われるが、キヨは「あんたに舞妓ちゃんは向いとらん」と早々に引導を渡され、ひょんなことから舞妓さんたちが共同生活をする屋形のまかないをするようになる。健太は挫折を乗り越え、一念発起、京都の洋食屋で修業を始め、料理人として成長していく。すみれも舞妓として頭角を現わしていく。キヨはというと、……ずっと、キヨのまんまである。とくにドラマはなく、成長が語られるわけでもない。
 さて、三人のうち誰が主人公でしょう?
 タイトルで分かるように、主役はキヨである。つまり、この作品は努力と挫折と成長の物語ではない。すみれをはじめ屋形の舞妓たちが努力し挫折し迷い新たに決意する中で、キヨは彼女たちのご飯を作る。だから、キヨがご飯を作るところが台詞(せりふ)もなく2ページにわたって描かれもする。お湯が沸く。包丁の音がする。キヨの手が動く。
 私は、舞妓さんたちがかわす京言葉も、青森のばあちゃんの言葉(南部弁?)も好きで、台詞もいい感じだし、やりとりもとても楽しいのだが、そうした中で差し出される無言のコマがなんとも愛(いと)おしい。たぶん、がんばってる舞妓たちがキヨの料理やキヨのいる台所に対して抱く、自分をリセットしてくれるような気持ちを、私自身も受け取るからだろう。それでね、ついね、うるうるしてしまうのです。
 最終巻、悲しみを滲(にじ)ませた希望の中で幕を閉じる。最後の一言が発せられる前、15ページに及ぶ無言のコマが続く。ここを味わいきるには、やはり第一巻から読んでいただきたい。
 まだほめたりない。だけど、不満もある。終わらないでほしかった。
    ◇
こやま・あいこ 青森県出身。漫画家。本作は2016年から週刊少年サンデーで連載。アニメ化、実写ドラマ化もされた。