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斉藤洋さんの絵本「学校ななふしぎ」 恐怖の根源は自分の中に ちょっとやりすぎなぐらいの怖さが人気

『学校ななふしぎ』(偕成社)より

怖いけど読みたい「学校の怪談」の魅力

――学校に伝わるちょっと不気味なウワサ。誰も真偽を確かめたわけではないけれど、なぜかみんなが知っている学校の七不思議。その怪談を絵本にしたのが『学校ななふしぎ』(偕成社)である。絵本としてはめずらしく、本格的に怖い話と怖い絵で、子どもの心を震わせる一冊。作者の斉藤洋さんに、制作当時のお話を伺った。

 子どものころから怪談が好きで、おばけの本もたくさん書いてきましたが、この本はちょっと怖すぎたかもしれませんね(笑)。僕は9歳までは「子ども」、10歳になったら「大人」という考えを持っているのですが、9歳までは「この世界は盤石(安全)である」と思っているほうがいいと思うんです。にもかかわらず、それを揺るがすような本を作ってしまいました。でも、こういうしっかり怖い本の方が好きっていう子がいるんですよ。思いのほか、たくさんの方に手に取ってもらえたようです。

――「本にまったく興味のなかった子が、ようやく自分から『欲しい』と言った本です」という読者ハガキが何枚も届く。「他の本はあまり怖くなかったけれど、この絵本は本当に怖くてよかった!」という感想も寄せられた。現実世界に戻れなくなりそうなラストの話もあり、画家・山本孝さんの描くイラストも容赦がない。しかしそこがたまらない魅力となっている。

 やっぱり山本さんの絵が卓越しているんですよ。迫力ある怖さ。ラフ(下絵)の段階からすでに怖かった。あまりに強い印象だったので、「この絵があるなら、余計な説明はいらないな」と、後から文章を削ったり変えたりしたところもあるんです。

「トイレの花子さん」は、いまだったらこんなに怖くは書かないですね。ほらこの絵、トイレに行けなくなるぐらい怖い。でも僕は、花子さんが一番好きなんです。中に入ると、コンコンとノックされて「ここはわたしのトイレなの……」と言われる。世の中は理不尽なんだと教えてくれる。理由は言わないんです。

『学校ななふしぎ』(偕成社)より

「トイレの花子さん」や「音楽室のベートーベン」などは、昔からある話ですが、いくつか創作したものもあります。「れきだい校長かいぎ」では、パジャマを着ている校長以外は、みんな死んだ人ということになっています。「あの世のこくばん」は、悪いことをやったら悪いことがあるという話ですね。一回やっただけでひどい目にあう。逃れるすべがないという終わりです。これも山本さんの絵が怖いんですよ。 

『学校ななふしぎ』の山本さんのラフ。色がつく前から既に迫力がある=日下淳子撮影

見えないことへの想像力が怖さを引き立てる

――斉藤さんと山本さんは、『学校ななふしぎ』の前に、『本所ななふしぎ』という本を出版している。本所は、現在の東京・墨田区のあたりで、かつて武家屋敷が多く定番の怪談がたくさん生まれている。

『本所ななふしぎ』もよく読まれましたよ。たとえば有名な『おいてけ堀』や、タヌキに化かされた話など、昔ながらの人気怪談が中心です。ただ、子どもにとっては学校のほうが身近なんですよね。夜の学校って何かが起こりそうという想像力をかきたてますから。

『本所ななふしぎ』のラフ。江戸時代のお侍さんが不思議で怖い体験をする=日下淳子撮影

 昔、家庭教師をしていた頃に、夏に近所の子を連れての合宿があったんです。夜は肝試しが恒例で、怖い話をたっぷり聞かせたあとに、暗い場所に5分間ひとりで置いていくんですよ。最初は泣いちゃう子もいたけど、何年もやっているとそのうち肝が据わる子も出てきてね。物音がすると「何か言いたいことがあるなら出てこい!」なんて大口をたたくようになった子がいましたよ。おばけっていうのは、本当は自分の想像の中で生まれている存在なんですよね。おばけがいるか、いないかは、自分が決めるもので、本当のことはわからない。

「物事は見えた通りじゃない」というのは、私の長年のテーマでもあります。大人は現実を見えたままに受け入れてしまうでしょう。まず科学的に説明がつかないことは信じない。「〇〇が当たり前」と思うと想像することをやめてしまう。でも、子どものほうが見えない世界に敏感なんですよ。もしかして……と自分で想像し始めたら、とまらなくなってしまう。

 絵本の世界も、現実の社会も、何が怖いかは、結局自分の中にあるんじゃないでしょうか。