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「四維街一号に暮らす五人」書評 友情も恋も過去も食卓に載せて

評者: 吉田伸子 / 朝⽇新聞掲載:2025年08月16日
四維街一号に暮らす五人 (単行本) 著者:楊 双子 出版社:中央公論新社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784120059261
発売⽇: 2025/07/08
サイズ: 2.5×19.1cm/256p

「四維街一号に暮らす五人」 [著]楊双子

 前庭にマンゴーの樹(き)が植えられているシェアハウス。たまらなくないですか。季節になると、マンゴーが、食べ放題!になるんですよ。天国か。
 本書はそのシェアハウス「四維街一号」(戦前に建てられた日式建築で、台湾・台中市の中心街にある)に暮らす住人と大家、5人の物語だ。
 史学研究科の乃云(ナイユン)(内気で、人付き合いに臆しがち)、台湾文化研究科の家樺(ジャホワ)(陽キャだけど、苦学生であることにやや負い目あり)、外国語文学研究科の小鳳(シャオフォン)(穏やかで気配りのお嬢さま)、中国語文学研究科の学生であり、BL作家でもある知衣(ジーイー)(浮世離れしているクールキャラ)。
 彼女たちはみな大学院生だ。乃云と家樺が修士課程の一年生で、小鳳と知衣は修士の二年。大家である安修儀(アンシュイー)は、飄々(ひょうひょう)とお気楽に見えるものの、どこか謎めいている。
 一つ屋根の下に暮らす5人の女たちのそれぞれのドラマ(乃云と家樺、お互いが少しずつ心を通わせ、成長していく第一幕、第二幕と、鈍感すぎる知衣に焦(じ)れる小鳳、の第三、第四幕、そして修儀が大家となるまでのゆくたて)がいい。なかでも、修儀のパートは読ませるし、本書の肝にもなっている。
 同時に描かれるのは、乃云がラウンジの押し入れで見つけた『再版(さいはん) 臺灣(たいわん)料理之栞(りょうりのしおり)』に書かれた100年前の台湾料理や、漢方を踏まえた小鳳が作る薬膳料理。一緒にテーブルを囲み、食べることで、出身も性格も背負うものも異なる女たちが、緩やかにつながっていくその様がいい。物語自体が、滋味深い湯(スープ)のように、心をほわほわとほぐしてくれる。
 作者の楊双子さんは、前作『台湾漫遊鉄道のふたり』で昨年、全米図書賞の翻訳部門を受賞。同書は日本翻訳大賞も受賞しているのだが、三浦裕子さんの翻訳は本書でも光っている(物語への理解を深めてくれる訳注も素晴らしい)。キュートでしなやかでありつつ、芯の太い物語だ。
    ◇
よう・ふたご 1984年生まれ、台中市育ち。小説家。本名は楊若慈。楊双子は亡き双子の妹・楊若暉との共同ペンネーム。