独走しても目の前の試合に一喜一憂。気持ちを共有できる幸せは「賢者の贈り物」 中江有里
7月30日、久しぶりの甲子園で観戦した日。広島に5-0の完封リレーで快勝した阪神タイガース、ついにマジックがついた!
結果だけ見れば、他チームを突き放している。
でもこれまでを振り返れば、こんな負け方する? と嘆いたことも多々あった。
今季の一つ一つの試合を観続け記してきた日記を読み返す。勝って喜んだことより、負けて悔やんだ思いの方が強烈に残っている。
●3月30日 マツダスタジアム 広島打線が活発11安打。先発門別投手 5回途中で降板、石黒にスイッチ。伊原6、7回またぎで8回及川。およよのピッチングは敗戦を忘れさせるナイピ。
流れは広島。1点も返せないのは悔しい。まだノーヒットの中野選手も悔しいだろうな。日曜日に負けると、月曜日が辛い。火曜日が待ち遠しい!(3)
● 5月29日 甲子園 先発はデュープ。横浜は難敵ジャクソン。1回裏、中野、森下の連打で先制するも、4回表、牧が同点HR。デュープ7回乱調で1-5に。
9回は一軍初登板ルーキー木下。ナイスピッチング。守護神入江に抑えられてゲームセット。これが「わからないように負ける試合」か。このところ、試合時間が長い上に接戦続き。中継ぎ陣はあまり使えない。試合は早く終わった。ずっと勝ち続けることができないなら、ポジのある負けにしよう(49)
● 6月4日 エスコン 先発は北海道出身の門別投手。本日は現地。
日ハムに先制されるも、4回表先頭テルが第14号、続く大山第5号で一気に追いついた! しかしその裏、山縣選手プロ初2ランで4-2に。
5回裏工藤登板。レイエス、郡司を抑えるも、伏見、万波に連打されて5点目献上。
引き離されて負けの空気濃厚。
8回表、2死から森下ヒットで出塁。テル、バックスクリーン左に飛び込む15号2ラン! 1点差になった。まだわからない!
しかし9回は日ハム抑えのジャスティスこと田中正義投手登板。ゲームセット。うーん、惜しかったけど、両チーム合わせて5本HRが飛び出した。しかもテル2本、大山1本。いいもの観ました。テルは通算99本(54)
と、あえて負け試合ばかり抜き出してみた。
6月は7連敗もあった。ずっと順調だったわけじゃない。
いろんなことを越えて、今がある。
私の趣味は読書。読みたいから本を読む。
そして心がざわつく時にも本を開く。
たとえば「賢者の贈り物」。
貧しい夫婦が互いにクリスマスプレゼントを送ろうと考えた。
夫は、祖父から父、そして自分へと受け継がれた時計を質に入れて、妻の美しい髪にふさわしい鼈甲の櫛を買った。
妻は夫が大事にしている懐中時計につけるプラチナの鎖をプレゼントするために、美しい髪を切って、商人に売ってしまった。
せっかくのプレゼントが無駄になった。その思いは尊いものの、報われない話だ。
人と人がわかりあうのは難しい。親子でも、恋人でも、夫婦でも、どんなに思っていても、相手の気持ちはわからない。わかりあえないのが当たり前、と思っていた方が楽だ。
そんなわかりあえない世界で、野球を観ている。ここには気持ちを共有している人が大勢いる。
ファンは、試合の結果に日々心揺るがせながらシーズンを過ごしているはず。
独走していても、目の前の試合結果に一喜一憂している。選手の活躍は何より嬉しいし、エラーは腹が立つし、負けると落ち込む。そして翌日は気分を切り替える。
阪神が勝つと猛烈に嬉しくて、負けると恐ろしくダメージを受ける。それはファンに共通する思い。年齢も性別も住んでる場所も様々だけど、わかりあうのではなく、わかってしまう。
勝っても、負けても、数え切れない人たちの心をつなげてくれる阪神タイガースだから、応援することをやめられない。