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「アフターブルー」書評 理不尽な死とどう向き合うのか

評者: 吉田伸子 / 朝⽇新聞掲載:2025年08月23日
アフターブルー 著者:朝宮 夕 出版社:講談社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784065391587
発売⽇: 2025/07/16
サイズ: 13.4×18.8cm/280p

「アフターブルー」 [著]朝宮夕

 映画「おくりびと」で、納棺師という仕事を知った人も多いだろう。あちらはいわば〝綺麗(きれい)なご遺体〟が相手で、本書で言うなら「一課」の仕事だ。けれど、もちろん、そうではないご遺体はあって、そちらは「二課」の領分となる。
 二課の正式名称は「特殊復元処置衛生課」。「社内でも突出して特異な課」である二課が扱うのは、「事故や事件、自殺などで亡くなったご遺体」がメイン。「身体や顔の損傷が激しいご遺体」の「復元処置をおこない、ご遺族が対面できるようにすること」が大きな目的だ。
 「損傷が激しいご遺体」(轢死〈れきし〉、縊死〈いし〉、飛び降りといった自死や、事故死、入浴中の「風呂死」等々)とは、どういう状態なのか。本書ではその状態が描写されているのだが、どこか医学書のように淡々としている。それは、作者のなかで、死とご遺体がきっちりと分けられていて、余分な感情を入りこませていないからだろう。死に縁取られてはいるけれど、死に傾きすぎていない。
 物語は、その二課に所属し、日々ご遺体と向き合う納棺師たちが抱えるものを静かに描き出していく。物語の力点はこちら、生者の側にある。
 人は、理不尽な死をどうやって消化し、その後の人生を生きていくのか。心に抱えた〝秘密〟とどんなふうに折り合って自分を保っていくのか。
 「どんなに考えても、探しても、人が死んだ理由なんて絶対に見つからないんだよ」「理由なんて、生きている人間が決めることなんだよ」
 八宵(やよい)が口にした、この言葉の重さを思う。容赦のない死を胸の奥に落とし込めるまで、どれだけの時が必要なのだろう。
 でも。だからこそ、〝お別れ〟という場が、区切りが、私たちには必要なのだ。そのためにこそ、今日も二課は、ある。
 第19回小説現代長編新人賞受賞作にしてデビュー作の本書。込められた作者の想(おも)いを、しっかりと受け止めたい。
    ◇
あさみや・ゆう 1991年生まれ。作家。初めて執筆した小説「薄明のさきに」で新人賞を受賞。単行本化に際し改題した。