ISBN: 9784635063715
発売⽇: 2025/07/15
サイズ: 18.8×1.8cm/256p
「根も葉もある植物のはなし」 [著]塚谷裕一
「どっちもどっち」とか「つるりとする」といった見出しが並ぶ。これだけ見ると何の本かと思うだろう。さまざまな植物の色や形態の面白さを写真とともに語ったエッセイ集である。
葉には表と裏がある。しかしユーカリの葉は両面同じである。なぜか。自生地であるオーストラリアの夏の光が強すぎるからだ。だけど、光が強いとどうして? ていうか、そもそもなんで表と裏があるのか。ふうむ、なーるほどね。あ、ごめんなさい、一人で納得してしまった。
写真がまたきれい。素人目には蘭(らん)にも見える白い花に「ほう」と息を呑(の)む。その花の下。え、ちょっと待って。これはアレか? と右ページの文章を読むと、ミョウガ!こんな美しい花を咲かせるんだ。さらに花弁を顕微鏡でのぞくと、これがまた、「透き通った花弁を通り抜けたきらめく光の粒が、黄金色に輝いている」のだ。
ボルネオで自ら発見した新種の花の様子を説明しようとして、「……先端から伸び出し3分岐したひも状の部分は、まるで雌しべのようだがさにあらず。この飾りひもは……」と長々と続けたあげく、ついに「もう何が何だかわからない」と匙(さじ)を投げ、読んでいても苦笑い。さて、その姿はというと、ヒスイの色をしたクリオネみたいなというか、神秘的にさえ見えるじゃないか。
そうそう、この写真も見せたくなる。肥大した茎の中がほじくられて、アリの巣みたいになっている。いや、そうなんだって、この植物はアリを飼っているのだ。
科学者のまなざしの中に、植物好きの小学生のまなざしが混じっているのだろう。だから、珍しいものを見せるときのちょっと得意げな様子が、失礼ながらかわいくもある。そして本書はこんな言葉で閉じられる。「それがいったいどんな仕組みなのかは、さっぱりわかっていない。」目を輝かせて未知を見つめる著者の姿がある。
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つかや・ひろかず 1964年生まれ。東京大教授(植物学)。小石川植物園園長。著書に『漱石の白百合、三島の松』など。