ISBN: 9784004320708
発売⽇: 2025/06/24
サイズ: 1×17.3cm/240p
「グローバル格差を生きる人びと」 [著]友松夕香
先日開催されたアフリカ開発会議で、政府はアフリカへの投資方針を示した。この背景には、貧困問題などを抱えつつも人口増、豊富な資源を背景に経済成長を持続させ重要な投資先となったアフリカの今がある。
本書は、こうした流れとは一線を画し、むしろ国際協力の「ディストピア」を現地の人びとの視点から明るみに出すものだ。取り上げられる事例は、国際ロマンス詐欺や陰謀論から、農業支援や女性のエンパワーメントなど既存の国際協力の負の帰結まで幅広い。そのなかでグローバル格差を生きる人びとの感情に着目する点が本書の白眉(はくび)といえる。
アフリカの人びとはメディアなどを通じて、「白人の国」と表象される豊かな社会を知ることで、グローバル格差を日常的に経験している。一方で、それらの国での移民規制や人種差別なども伝えられ、植民地支配の引き続く影響ともあわさり、「白人」や西側諸国にたいする負の感情が増殖しているという。さらに、この負の感情が、「白人」を標的とする詐欺や陰謀論の燃料となったり、中国やロシアへの好感を導いたりしている。
これらは、不均衡なグローバル化の産物といえる。だが、それを解決するはずの国際協力もまたこの不均衡を前提とし、「西洋」の価値観を基準に世界の国家や人々を序列化してきた。それゆえ既存の取り組みでは、劣位化された人びとの感情やそれに伴う軋轢(あつれき)を解決できないという。
グローバル格差とは、単に世界における不平等を意味するのではなく、世界が国境を越えて結びつくなか、その結びつきとともに、それを断ち切る壁も同時に経験されるという、人びとの相反する日常を含み込んだものだ。本書は、国際協力の課題と再構築を訴えるだけでなく、国境をまたいださまざまな矛盾が人びとの経験を規定するという複雑な現実を描き出す優れたグローバル社会論でもある。
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ともまつ・ゆか アフリカでの国際協力活動を経て、法政大教授(経済人類学)。著書に『サバンナのジェンダー』。