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「みんなで決めた真実」書評 「ありえなさ」でインチキに対抗

評者: 野矢茂樹 / 朝⽇新聞掲載:2025年09月06日
みんなで決めた真実 著者:似鳥 鶏 出版社:講談社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784065399071
発売⽇: 2025/08/06
サイズ: 13.1×18.8cm/280p

「みんなで決めた真実」 [著]似鳥鶏

 似鳥鶏という作家を知らなかった。けれども読んだら面白かった。妻にも読んでもらって反応がよければ書評しようかと思って見せたら、ああ似鳥さんね、と言う。え、知ってるの? たぶんこれまで出た文庫本が全部廊下に並んでいる。灯台もと暗しである。それらを読破している妻も、たいそう面白かったとのこと。彼女に書評を書いてもらおうかと思ったのだが、拒否された。
 似鳥鶏はミステリー作家である(いや、知らなかったんだけどさ)。しかしこの本はというと、ミステリーと言い切れないところがある。むしろミステリーを手玉にとった痛快娯楽小説だろう。設定がすごい。ありえない、いや、ありえないとも言えない、ていうか、もうこの方向に進んでるんじゃないの? と思わせるその設定は、名探偵が現実の犯罪の謎解きをするのをテレビのショーにしているというもの。見栄えのする犯人を仕立てて、台本を書き、見栄えのする名探偵がそれを演じる。冤罪(えんざい)なのだが、犯人にされた人が社会的に傷つかないような配慮もなされ、そのあとコメンテーターになったり、手記が出版されたり、タレント気分で犯人を引き受けてしまう。
 しかし、この冤罪は許せないという事件が起こる。とはいえ真実より見栄えという状況である。真実じゃあ太刀打ちできない。そこで活躍するのが、介護付有料老人ホームに入居している一人のじいちゃん。名探偵の推理のインチキを暴き、それを上回るフェイクな推理を、このじいちゃんがテレビカメラの前で演じる。だけどさ、じいちゃんだよ。ハンサムな名探偵に見栄えで勝てるとは思えない。いやいや、どっこい。
 というわけで、本作品は推理小説がもっているトリックのありえなさを逆手にとる。そしてじいちゃんが、フェイクにはフェイクで対抗して、このインチキな状況をみごとに打破する。ざまーみろである。
    ◇
にたどり・けい 1981年生まれ。作家。『理由あって冬に出る』で鮎川哲也賞佳作入選。「戦力外捜査官」シリーズなど。