ISBN: 9784163920092
発売⽇: 2025/08/25
サイズ: 14×19.6cm/640p
「激しく煌めく短い命」 [著]綿矢りさ
志望校に落ちたため通うことになった公立の中学の入学式、体育館への入場直前で、久乃は結わえていた髪の毛がほどけてしまう。うまく結べず焦る久乃。その時、すっと後ろから手が伸び、久乃の髪の毛が綺麗(きれい)に結い上げられる。
これ、久乃と綸(りん)が初めて交差するシーンなんですが、ボーイ・ミーツ・ガールならぬ、ガール・ミーツ・ガールとして、秀逸じゃないですか?
この、入学式から卒業式までを描いた第一部「13歳、出会い」と、第二部「32歳、再会」。描かれているのは、悠木久乃と朱村綸、二人のドラマだ。
恋はするものじゃなく、おちるもの、というのは、江國香織さん『東京タワー』に出てくる言葉だが、入学式のこの時、久乃は綸との恋に落ちたのだ。けれど、そのことを認識するには、久乃は幼すぎた。
恋なのか、愛なのか、友情なのか。まだまだ心も身体も育ちきっていない二人が、それでもお互いを求め合う。その心が尊い、どうか繋(つな)いだその手を離さないで、と思うのは、私が大人だからで、その尊さを朧(おぼろ)げながらも感じつつも、久乃も綸も周りに流されてしまう。第一部で、その過程が丁寧に描かれているからこそ、第二部での再会が奇跡のように読み手の胸に刺さる。
卒業式で手酷(てひど)く決別してしまった久乃と綸(その時の取っ組み合いの喧嘩〈けんか〉で、久乃の右目の横には烙印〈らくいん〉のような傷が残った)。もう二度と会うはずのなかった二人を再び引き合わせたのは、綸の幼馴染(おさななじみ)であり、中学で同級生だった橋本だった。
ぎこちない再会からゆっくりと距離を縮めていく二人。だが綸には7年付き合っている年下の恋人・清盛の存在が……。
二人の愛の行方は、ぜひ本書で。13歳の出会いから32歳の再会を経て、「激しく煌めく短い命」を、二人がどう生きるのか、生きていくのか。祝福のようなラストの余韻に浸りたい。
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わたや・りさ 1984年生まれ。作家。『インストール』で文芸賞を受賞しデビュー。『蹴りたい背中』で芥川賞を最年少受賞、『かわいそうだね?』で大江健三郎賞、『生のみ生のままで』で島清恋愛文学賞など。