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「浮世絵のみかた」書評 最大級の絶賛と強烈な米国批判

評者: 横尾忠則 / 朝⽇新聞掲載:2025年09月27日
浮世絵のみかた 著者:フランク・ロイド・ライト 出版社:作品社 ジャンル:アート・建築・デザイン

ISBN: 9784867931028
発売⽇: 2025/07/23
サイズ: 15×21cm/208p

「浮世絵のみかた」 [著]フランク・ロイド・ライト

 『浮世絵のみかた』なんて鑑賞の制度を押しつけている感がしないでもないけれど、それ以上に本書の著者は明治時代のアメリカ人に対して、浮世絵の魔力と霊性をこれでもかと、多くは100年以上前の文体や日常会話であまり使わない難解な言い廻(まわ)しで語るのだが、日本への理解も認識も薄い時代に、果たしてどこまで受け入れられたのか疑問である。訳者も著者のニュアンスを残しながらの訳出にはかなり苦労されたのではないかと思う。
 そんなことなどおかまいなしに、狂信的なまでに著者のフランク・ロイド・ライトは、浮世絵のようなすぐれた芸術作品は「人間の魂に咲き誇る花」だと最大級の絶賛を送る。
 あらゆる芸術の中で美の特質を本能的に捉える能力がアメリカ国民には欠けており、真の芸術の持つ生命力と神秘に触れる「眼識」がアメリカ人には欠如していると、強烈な自国の批判にも及ぶ。
 さらに日本の芸術は根本的に構造芸術であると断じ、日本の芸術を理解するためには構造要素こそ最も重要であり、浮世絵の数学的要素は音楽と同様「それは始まりには現れるものの、最後は消える」と、まるで禅世界を語るかのように熱弁を振るう。
 一体何が言いたいのか? つまり浮世絵はデザインであり、模様であり、それ自体が美しく、さらには西洋絵画の否定にまで足を踏み入れていく。
 彼のやっかいな論理をそのまま受け入れることに、西洋人は抵抗がなかったのだろうか? 結局彼は、浮世絵を通じて自身の建築論を展開したかったのではないのか。
 彼は浮世絵をポスターデザインとして、地球で最も美しいグラフィックアートと認めているようで、広重の情緒性を絶賛する。
 本書を読んだ昔のアメリカ人と現代の日本人の間にもしズレがあるとすれば、それは時間かな?
    ◇
Frank Lloyd Wright(1867~1959) 米国の建築家。8件の作品が世界遺産登録。浮世絵収集家としても知られる。