ISBN: 9784560091685
発売⽇: 2025/07/30
サイズ: 19.4×4.8cm/664p
「ファシストたちの肖像」[著]マイケル・マン
なぜファシズムはあれほどまで台頭したのか? なぜ何百万もの普通の個人がファシストになったのか? その解明を手掛けた本書は、欧州6カ国の膨大な情報を実に丹念に手堅く分析する。
前提として一つの事実を提示したい。日本は6カ国のうち4カ国と軍事同盟を締結していた。1940年9月調印の日独伊三国同盟は、同年11月には本書が扱うハンガリーやルーマニアの参加を機に拡大の一途を辿(たど)る。つまり、日本は枢軸陣営の大国ドイツ・イタリアだけでなく、東欧諸国とも無縁ではなかった。
本書によれば、ファシズムとは、国内の浄化を指向する国民国家主義を、暴力の行使を伴う準軍事的組織活動によって追求する右翼運動。これは、第1次世界大戦後のイデオロギー・経済・軍事・政治上の重層的な危機に対する応答に他ならなかった。ファシズムに動員されたのは、主に若年層や学生・教員。教育制度や学生組織がリクルートの温床になったとの指摘は重い。だが、それだけでは政権は獲得できない。軍や官僚の保守派エリートとの同盟、またはその取り込みの有無が政権獲得の成否を左右したと言う。
その上で著者は、権力掌握・支持基盤・暴力行使などの相違に基づき、6カ国を分類する。安定的ファシズムの独・伊、ファシズムが権威主義に収斂(しゅうれん)していくハンガリー・ルーマニア・スペイン、ファシズムとナチズムが並立したオーストリア。
世界の中で上記諸国との関与の度合いが最も高く、親和性さえ有したのは紛れもなく日本。他書で著者は、日本の軍国主義を、欧州に比べ運動の自律性が弱く、軍主導の上からの権威主義を特徴とする「準ファシズム」と定義した。つまり日本は、独・伊よりも(同一ではないが)東欧の事例に近いのだ。独・伊と同様、東欧と日本で右派が勢いを増す今、本書は前世紀の他人事として片づけられない重い問いを投げかけている。
◇
Michael Mann 1942年生まれ。社会学者。米カリフォルニア大ロサンゼルス校名誉教授。『ソーシャルパワーⅠ・Ⅱ』など。