歴史学や社会学の教養書や専門書などで知られる出版社、藤原書店(東京都新宿区)の藤原良雄社長がフランス芸術文化勲章オフィシエを授与された。19日に都内であった叙勲式で、藤原さんは「一出版人として、じかに著者や訳者に会い対話しながら本をつくってきた」と喜びをかみ締めた。
藤原さんは1949年生まれ。編集者としての歩みは半世紀余りに及ぶ。在日フランス大使館のマテュー・フルネ文化参事官は受章に際し、その仕事ぶりを「(日仏間に)知的な対話や出会いをつくりだした」と高く評価した。
藤原さんは若き日の模索を振り返り、フランス発の歴史学、アナール学派との出会いが大きかったと語った。「当時全盛のマルクス主義に代わる歴史の見方や方法論がないかと探した。アナール学派は地球全体を描く全体史、今でいうグローバルヒストリーをやろうとしていた」
出版社・新評論に在籍した80年代に手がけた主な翻訳書は、例えば、ソ連崩壊(89年)を予見したエレーヌ・カレール・ダンコース「崩壊した帝国」(81年)。89年に独立して藤原書店を立ち上げると、フェルナン・ブローデル「地中海」やイマニュエル・ウォーラーステインの世界システム論、ピエール・ブルデュー「ディスタンクシオン」など、今や歴史学や社会学の古典とされる知識人の主著を紹介してきた。歴史人口学の方法論に早くから気づいた編集者の一人で、日本でも読者が多いエマニュエル・トッドの仕事も最初期から取り上げてきた。
さらにアナール学派の源流をさかのぼり、19世紀の歴史家ジュール・ミシュレにたどり着いた。ルネサンスの人間復興を「発見」した大著「フランス史」を著し、「鳥」や「虫」「女」「海」「山」の歴史を考察した著作も。「出版しておけば気がついて分かってもらえるのではと考えた」という。
藤原さんは今年、喜寿を迎えた。芸術文化勲章シュバリエ(97年)に次いで約30年ぶりの受章に「日本にとって何が大事か、何を考えなければならないかを考え続けたい」と誓った。(大内悟史)=朝日新聞2026年1月28日掲載