ISBN: 9784635230278
発売⽇: 2025/09/17
サイズ: 18.8×1.9cm/320p
「動物たちのインターネット」 [著]マーティン・ヴィケルスキ
動物に超小型無線装置を取りつけ、その行動を追跡する。送られてくる彼らの位置情報や活動記録データは、人の耳目の届かぬ場所での動物の思いがけない行動を伝え、既知の常識を更新する。
たとえば、遺伝子の導きとされた渡り鳥の大移動は、1.5グラム以下のマイク付き発信機により、鳥たちが嘴(くちばし)を閉じたまま囁(ささや)きを交わし、随時「情報交換」もしながら最適ルートを見出(みいだ)していることが明らかになった。
こうした発見が地球規模でより多くの種になされれば、人間も含めた生物の相互作用や環境との関わり(地震や気候変動、疫病、密猟など)を解析・予測できる。本書は、かような動物追跡技術の開発プロジェクト(後に「ICARUS〈イカロス〉〈宇宙を利用した動物研究のための国際協力〉」と呼ばれる)を20年以上にわたり先導してきた著者によるドキュメンタリーである。
様々な動物たちの驚くべき行動(離着陸に最適な体重調整を朝夕行うツグミ、群れからはぐれて農家の家族となるコウノトリ……)や、それが示唆する生きのびるための彼我共通の知恵など、現在進行形のプロジェクトがもたらす発見は素人もわくわくするほど面白い。が、同様に興味深いのはその軌跡、つまり発想から実現までの壮大な紆余曲折(うよきょくせつ)の物語だ。
革新性や学際性の高い研究への無理解。資金調達の困難。個人的思惑の絡んだ内輪揉(も)め。長く多岐にわたる国際プロジェクトに相次ぐ障害に、著者は屈せず軽やかに次の手を考え、時にユーモアも交えて対応する。
多くの人を惹(ひ)きつける企画命名術や、児童書にも着想を得る柔軟で斬新な想像力には目から鱗(うろこ)。ダメ元でも心を尽くして理念と理想のために行動する情熱や、本文から滲(にじ)み出る共同研究者、動物たち、ひいては一つの生命体たる地球全体への限りない敬愛に胸が熱くなる。特異な研究の枠を超え、理想を実現するヒントが詰まっている。
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Martin Wikelski ドイツのマックス・プランク動物行動研究所所長、コンスタンツ大生態学名誉教授。