トランプ政権の背後には、どうやら宗教勢力がいるらしい。
次々と世界を驚かす「洪水戦略」にはまり、しばらくのあいだ落ち着いた分析も解釈もできない状況が続くなか、そうした勘どころへの認識は定まってきた。しかし、アメリカの宗教勢力について説明するのは、思った以上に難しい。
福音派には、これといった定義もなく、調査機関でも規定が違うので、統計データも扱いにくい。論争になりやすい研究対象なのである。しかも、今の日本で「宗教」というと、どうしても「反知性」「狂信的」「陰謀論」などのイメージがつきまとう。それが型破りなトランプ大統領と重なって、結局は理解が当初の安易なイメージに収斂(しゅうれん)してしまう傾向にある。
かつてトランプ政権で戦略を担った人物は、政権を離れた後、欧州の集会で、レッテルを逆に利用すべきだ、と語っていた。これは、実態が知られていなければ目的を実現しやすい、という戦略のことである。
本書は、宗教勢力の実態を明らかにすることで、トランプ政権の戦略に対抗する手がかりを教えてくれる。レーガンやブッシュといった共和党の大統領だけでなく、カーターやクリントン、オバマなど、民主党の大統領との関係も描かれていて抜かりがない。
そればかりか、最新の研究動向をおさえたうえで、ここ半世紀のあいだの宗教勢力にまつわる主要な人物や出来事、争点も詳しく描かれている。政権との関係だけでなく、広く現代アメリカを知るうえでも欠かせない本と言えよう。
昨年は他にも「福音派」についての研究書が出ており、画期的な年であった。
今後、日本における「福音派」についての議論は、メディアでもアカデミアでも、本書が中心になるのは間違いないだろう。=朝日新聞2026年1月31日掲載
◇
中公新書・1320円。25年9月刊。8刷6万6千部。担当編集者は「アメリカがなぜこうなっているのか、理解する言葉が欲しい人は多いと思います。宗教を軸としてトランプ現象の背景を描いたため、読まれているのでは」という。