「クジラの いのちは おわっても/そのからだを たべる 生きものたちが/べつの いのちを つないでいくのです」という一文が強烈に刺さる。日々、コンクリートジャングルで生活していると忘れがちだが、我々も植物であれ動物であれ誰かのいのちを頂き生きている。
本書で紹介されているように、深海のいきものにとって大型のクジラは「2000年分のごちそう」になる。死体だけでなく、排泄(はいせつ)物(糞〈ふん〉や尿)もごちそうである。深海というはるか遠い場所で、命の営みが絶え間なく続き、巡り巡って海の豊かさを守り、我々の生活も支えられていることを再認識する。
絵は、生物の特徴をしっかり捉えていて、特にクジラの骨格の描写には感心した。鯨類を専門とする者にとって、海に沈んだクジラに集まる鯨骨生物群集の研究はとても興味深く、多くの新種も見つかっている。本書に登場するマッコウクジラは鯨骨生物群集分野でもよく登場する。鯨類は世界中に約90種いるが、程よい皮膚の硬さ、皮下脂肪の厚さ、大型であることなどの好条件が多くの生物たちの集まりやすい環境を作っているのだろうか。
鯨類の骨は油分が多いため、ホネクイハナムシにとってはオアシスであり、たかが骨、されど骨なのだろう。真っ暗な深海では感覚など使えないだろうと思われがちだが、そこに棲(す)むいきものたちは嗅覚(きゅうかく)を使って獲物を発見したり、自ら発光してエサを誘(おび)き寄せたりと、しっかり環境に適応している。
それにしても、世界中の海には10万頭ものクジラが沈んでいるとは……驚きである。その一部でも海岸に打ち上がってくれれば、今度は、博物館の標本という別のいのちとしてつないでいくことを、私がお約束する。=朝日新聞2026年4月4日掲載
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童心社・1980円。24年9月刊。15刷13万1千部。藤原義弘さん監修。「SNSで話題になったことで大人も興味を持ってくれた。『子どもと死について初めて話すきっかけになった』という声も多く届いている」と担当者。