ISBN: 9784103054603
発売⽇: 2026/03/18
サイズ: 19.1×2cm/256p
「少子化に打ち勝った保育園」 [著]石井光太
やまなみこども園は熊本市の市街地にある認可外保育園。自由で絵本に飛び込んだか、のような保育内容も興味深いが、私がこの本をおすすめする理由は少し別にある。
本の中盤では、園を創設した山並道枝先生一家の数十年がつづられる。
なかには、深刻な問題を抱える園児もいた。暴力や離婚、生活苦で行き詰まった卒園生の親子もいた。
勇気を振り絞って発したSOSを、この保育園は放っておかない。
暴力をふるう家族が顔見知りなら、直談判も辞さない。家を失った親子を自宅に泊めて、次の一歩を支える。
経済的な理由で次の出産をためらう夫婦には、「保育料ば下げるし、何でも協力する」「産みなさい」。
人生や子育ては思わぬことの連続だ。弱みを出せる先があることが、どれだけ大きな支えか。
子どもを、家族ごと支える。ときに、損得抜きで。簡単ではないはずだ。でも、困っている人が目の前にいたら、放っておけない。「子どもを中心に考える」が一家の、保育園の、合言葉だ。
ときに保育の枠を超えて支えることに意見は分かれるかもしれない。でも、助けが必要な親を孤立させた先に、子どもの幸せは見えない。
園の経営は大変だが、卒園生、親、職員、地域が支え続ける。
かつて、子どもは地域の宝だった。共同体の崩壊は、地域のしがらみから私たちを解放したが、皮肉にも、子育てを核家族のなかに閉じ込めた。
「やまなみこども園に通うと、もう1人産みたくなる」という親の言葉は印象的だ。タイトルはやや疑問だが、出産や子育てを肯定的にとらえるには「安心」が大事だということがよく分かる。
保育園を介した「新たな共同体」の可能性。弱みを正面から受けとめ、みんなで支え合う姿は、タイパ・コスパ重視の現代が忘れかけた大切なものを思い出させてくれる。
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いしい・こうた 1977年生まれ。作家。『こどもホスピスの奇跡』で新潮ドキュメント賞。『遺体 震災、津波の果てに』など。