出版業界を取り巻く危機感が取り沙汰される中、批評家の佐々木敦さんの呼びかけで、「今が危機なのか? 本と出版と文芸をめぐる緊急ミーティング」が7日、東京都内でひらかれた。笠井康平さん、豊崎由美さん、仲俣暁生さん、矢野利裕さんが登壇し、3時間以上に及んで、業界の「危機」を見つめ直した。
佐々木さんが、イベントを企画しようと考えたのは、出版取次大手、日販グループホールディングスの富樫建社長の発言がきっかけだった。5月に開いた決算説明会で富樫社長は、不調が続く取次事業に関し、「撤退も検討していかなければならない環境が迫っているという危機感を持っている」と語った。この発言に注目が集まり、SNSなどで出版業界の危機をめぐる議論が沸き上がっていた。
編集者で文芸評論家の仲俣さんは、30年前から出版の危機はテーマとして消費されてきたと振り返り、「30年間、アジェンダも議論する人も、論理構成も変わっていない」と口火を切った。「今の状況が危機だということと同時に、何かの考え方をひっくり返せるタイミングじゃないか」とも語った。
議論の中では、今が危機なのか情勢を判断する統計データが不十分だという指摘も。作家で研究者でもある笠井さんは、電子的な広がりを踏まえ「テキストデータやテキストコンテンツが世の中でどう広まっていくかも調べていく必要がある」。
危機の一方で、文学フリマの規模拡大や仲俣さんが実践する「軽出版」といった動きも広がる。評論活動を行う矢野さんは、文芸作品に親しんでいなかった人が短歌を好きになるなど、独立系書店が新しい読者層を生んでいるという実感を語った。「何か固まりがあるんだけどうまくマッチングできていない。バブル的な盛り上がりではなく、もっと実質的な回路の結び方が、まだまだありそうだと感じている」と投げかけた。
書評家の豊崎さんは「軽出版などのスリップストリームは将来の危機を救う希望かもしれないが、それが輝くには紙の出版というメインストリームも大事だ」と述べた。(堀越理菜)=朝日新聞2026年7月15日掲載