ISBN: 9784065423332
発売⽇: 2026/04/16
サイズ: 13×18.8cm/352p
「観客という凄まじい怪物」 [著]佐竹謙一
時代と共に移り変わってきたエンターテインメント。特にここ10年は媒体からして多種多様に広がり制作側も試行錯誤の連続ですが、お客様側が何を面白いと感じるのか、〝芯〟を探す旅に終わりはありません。
スペインをハプスブルク家が治めた時代にはどんな演劇が? その中でも16世紀最後の四半世紀から17世紀半ばまでを軸にした演劇の実態と、周辺事情について。読み終えて「中心人物の嗜好(しこう)と財源による万国共通の不変の一面」と、「お客様主体で好評を模索する現在との違い」について、特に考えました。
まず1章は、帝国の危機や臣民の幸せはほぼ眼中になく、文化的な楽しみ(と美しい女性)を追うフェリペ四世。すると家臣も主人のご機嫌取りで催しを考え、演劇も発展していきます。
『ドン・キホーテ』を書いたミゲル・デ・セルバンテスが、従軍や投獄を経験していたことは知っていましたが、劇作家同士の争いを読んでいくとより人間味が感じられ面白い2章。王宮や教会主導ではない「商業演劇」の創成期として、観客の熱を奪い合う様子が伝わってきます。
続く3章の建築図面を配した「劇場」自体の紹介も興味深いですが、やはり表題にもなっている4章です。
静かに鑑賞する現代と違い、好き嫌いで感覚的なやんや・野次(やじ)が飛び交う客席は本当に今と「違う」のか、考えるところがありました。インターネット発展以降は、SNSなどから観客の率直な感想を確認可能になり、これは時間差で客席からやんや・野次を受けているのと変わらない気もします。お色気演出への期待や、悪役への中傷などについても同様です。
「あとがき」でも触れられる、スペイン大衆演劇の演目に多く見られる「名誉感情という社会の規範」は、日本では何にあたるでしょうか。この〝芯〟を探す旅を続ける身として、読めてよかった一冊でした。
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さたけ・けんいち 1949年生まれ。南山大名誉教授。著書に『浮気な王の宮廷生活 スペイン・ハプスブルクの落日』など。