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川北省吾「新書 世界現代史」「新たな生き方」探す指南書

 なぜ「力こそ正義」はよみがえったのか――この問いの切実さは増すばかりだ。昨年12月、「米国が世界秩序を支える時代は終焉(しゅうえん)した」と宣言したトランプ政権は、年初にベネズエラ、2月末にイランに攻撃した。中露に加え、米国も躊躇(ちゅうちょ)なく国際法や弱小国の主権を踏みにじる時代。その到来はいかに用意され、なぜ防げなかったのか。本書はこの問いを、世界各国の識者インタビューを豊富に交えて丹念に分析する。

 混迷の時代を読み解くキーワードが、大国による「失地回復(レコンキスタ)」だ。世界秩序の動揺はトランプ登場のはるか以前に始まった。冷戦の勝利に酔いしれた米国は、ロシアの自尊心や警戒心への配慮に欠ける言動を重ね、その「失地回復」への野心をかき立てた。ブッシュ政権が旧ソ連圏への民主主義の拡大を追求し、ジョージアとウクライナの将来のNATO入りを提案したブカレスト・サミット(2008年)は最たる例だ。その数年後、中国では習近平が最高指導者に就任。以降、鄧小平以来の慎重な「韜光養晦(とうこうようかい)」の外交は後退し、「中華民族の偉大な復興」の大義のもと、南シナ海での拡張主義が加速する。2022年のロシアのウクライナ侵攻以降、「失地回復」の野心を抱える中露両国は「無制限の友好」のもとで、結束を強めている。

 戦後長く続いた米国の一極覇権は、日本にとっては心地よい秩序だった。しかし米国は、他大国の「失地回復」行動を抑え込むだけの力も意志も失いつつある。「弱者の強みは誠実さから生まれる」。中小国の結束を呼びかけてカナダのカーニー首相はこう述べた。日本もノスタルジーから抜け出し、新たな生き方を模索すべきときだ。その最良の指南書を、タイムリーに生み出してくれた著者に深い敬意を表したい。=朝日新聞2026年8月8日掲載

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 講談社現代新書・1320円。25年12月刊。10刷10万部。著者は共同通信の編集委員兼論説委員。担当編集者は「『力こそ正義』を地で行く出来事が相次ぎ、世界が信じられない方向に動くほど読まれる。それが正直で複雑な実感」という。