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大きく負け越した交流戦で悲観しがちな心、手塚治虫「W3」のように危機を突破したい 中江有里

(Photo by Ari Hatsuzawa)

 2026年6月、公益社団法人日本文藝家協会創立百周年記念パーティーに出かけた。
 日本の相当数の作家が所属する会の百年に一度の会合。見たことないくらい大勢の作家が集まっている。

 乾杯の音頭をとったのは作家・北方謙三さんだ。
 舞台から降りた北方さんに挨拶しようと多くの作家や編集者が列をなしている。
 これがいわゆる「北方詣」(勝手にネーミング)。

 私も列の末端に並び、順番を待って北方さんにお目にかかることができた。
 北方さんは私の顔を見るなり、おもむろにおっしゃった。

 「ところで、最近の阪神はどうなの。きみ、虎ファンでしょ」

 言葉を濁しながら列を離れて、スマホを開いた。
 本日阪神タイガースは福岡ソフトバンクホークスとの交流戦(3戦目)の真っ最中。
 試合を観ずに来た。結果を知るのが怖かった。交流戦は負けが込んでいたから。

 現実から目を背けてはいけない。
 そうわかっていても、心がどうしても受け入れられない!

 自分の性格を一言であらわすなら「ネガティブ」だ。
 すぐに悪い方に考えてしまい、ひとりで落ち込んでしまう。
 たとえば手を滑らせて、持っていた皿を割ったらこう思う。

 「悪いことが起きる前兆?」

 これから起きるかもしれない不吉なことに怯える。緊張のあまり、何にもない床で躓いて転ぶような気がする。

 バントを失敗したら「え、負けそう」
 併殺打をくらったら「あかんかもしれない」
 ノーアウト満塁で1点も入らないと「流れが来てない!」

 結果が出ていないのに、勝手に負けを覚悟するのは、私の悪い癖です。

 「W3」(ワンダースリー)は手塚治虫によるSF名作だ。
 無益な争いを繰り返す人類の存亡をめぐって、銀河連盟からW3と呼ばれる3人組が地球へ送り込まれた。ウサギ、ウマ、カモの姿を借りた3人組は反陽子爆弾で地球を破壊しようとするが、真一少年の純真な心に触れ、地球人への考え方をあらためる。
 ところがW3の不手際で、爆弾は悪の組織に渡ってしまった。
 爆弾を取り返し、地球を救うためにW3と真一少年は動き出す。

 本作はサイエンスフィクションとあるけど、手塚治虫流の人類への警鐘だ。
 現実でも誰かの欲望と欲望がぶつかった結果、数えきれないほどの戦争が起きている。
 W3は地球をなんとしても守ろうとするが、それは銀河連盟に対する裏切りとされる。
 そもそもすぐれた宇宙人による銀河同盟が、一方的に地球を滅ぼしていいのか?
 設定にこんな矛盾を入れ込んでいるのも鋭い。
 長い間マイベスト3に入るマンガだ。特にラストがいい。

 最悪な状況から始まっても、仲間一人一人の力を合わせ、危機を突破していく。
 最初からあきらめてきたら、何の進展もない。
 「W3」のように、決まっていた結末をひっくり返していくから物語は面白い。

 交流戦を終えて、タイガースはチームの弱いところが浮かび上がったように感じている。
 結果は見たくない、と目を伏せていたら見えてこないもの。

 これまで奇跡のような勝利、圧倒的な勝利、紙一重の勝利、いくつもの勝利を見せてくれた阪神タイガース。いくつもの敗北を越えてきたから喜びも一層なのだ。

 強くなるには、自らの弱点を知り、克服していくのみ。
 勝手にネガティブになっている場合じゃない!