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信頼に足る倫理観の下で展開される稀有なエンタメ小説「藍色時刻の君たちは」 岩井圭也が薦める文庫この新刊!

  1. 『藍色時刻の君たちは』 前川ほまれ著 創元文芸文庫 1100円
  2. 『もっと悪い妻』 桐野夏生著 文春文庫 704円
  3. 『荒地で生きる 「新・冒険論」改訂』 角幡唯介著 ヤマケイ文庫 1320円

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 VUCAという言葉が流布して久しいが、未来が不確実であることは古くから変わらない。一年後あるいは一秒後、私たちの身には思いもよらない出来事が起こり得る。文芸はその決定的な一瞬を永遠にする。

 (1)は天災によって人生が激変した人々の物語。宮城県の港町で暮らす高校生の小羽(こはね)、航平、凜子(りんこ)は、家族の介護や家事を担うヤングケアラー。鬱々(うつうつ)とした感情を抱える小羽たちだが、ある女性との出会いを通じてかすかな希望を獲得していく。だが二〇一一年三月、突如町は震災に襲われる。信頼に足る倫理観の下で展開される稀有(けう)なエンタメ小説。

 (2)は六つの短編を収めた短編集。表題作では、五歳の娘をもつWEBデザイナー・麻耶の夫公認の不倫が描かれる。「どちらかを選ぶなんてできない」という麻耶には、この生活をやめる気は毛頭ない。「武蔵野線」は、三十代の女性に恋焦がれる五十代のタクシードライバー・原田を描いた一編。女性からのメールを待ちわびる原田の姿は愚かしく、哀(かな)しい。いずれの短編にも予想外の展開が用意されている。

 先が見えない行為の最たるものである「冒険」とは何か、という問いに挑むのが(3)。著者は「脱システム」をキーワードに、スポーツ化した冒険を批判的に論じ、冒険の本質が自力で命をコントロールする自由にあると喝破する。あとがきの「未来は誰にとっても不確実で未知なもので、その意味ではシステムの外側にあります」という言葉は、人生を冒険するすべての人に響く。=朝日新聞2026年8月29日掲載