- 『日本詩歌の特質』 大岡信著 ちくま学芸文庫 1540円
- 『ドストエフスキー全短篇』(Ⅰ・Ⅱ) ドストエフスキー著 米川正夫訳 中公文庫 各1320円
- 『文学ノート 付=15篇』 大江健三郎著 講談社文芸文庫 1870円
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日本における詩歌は、日本の言語体系の歴史と沿うようにある。それゆえに、茫漠(ぼうばく)とした詩歌の海から、何を自身の羅針盤とするか悩む読者や書き手も少なくないだろう。(1)は、『伊勢物語』や『古今和歌集』『源氏物語』など古典を読む視点や、芭蕉や俳人論を手がかりとして、詩歌の特質を解く論集である。表題作は、一九九二年に北京で行った講演を基にしており、「日本はたぶん全世界で唯一のアマチュア詩人の氾濫(はんらん)している国であろう」と位置付け、日常に詩が溶け込んでいることを示した。作者の死後、SNSによる短詩の広まりを観(み)ると、日本詩歌の今と過去とを架橋する一冊と気づく。
(2)は、極限状況における心理描写の名手による短篇(たんぺん)集。特に「弱い心」における「ぼくはこんな幸福を受ける資格がない!」というアンビバレントな心情の吐露は、時代や国境を越えて若者(だった人も含め)を惹(ひ)きつけてやまないだろう。
(3)は、若き日の作者が、文業へのテーゼを書き記したもの。付記として長編小説『洪水はわが魂に及び』執筆過程において取り除かれた十五篇の掌編がある。掌編ゆえに、プロットにそのまま触れられるような文体の濃密さがあり、イデオロギー(「3 家族」)やアメリカ(「14 結婚」)といった、作者に通底したテーマが現れ、人間という生き物における枠組みの限界を解き明かしたい執念を感じる。
暑い盛りではあるが、涼を求め落ち着ける場所にて、読書に「アツく」なるのもよいだろう。日常に、詩は潜んでいる。=朝日新聞2026年8月8日掲載