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「舌の上の階級闘争」書評 作り、食らい、社会背景を語る

評者: 藤田結子 / 朝⽇新聞掲載:2025年01月18日
舌の上の階級闘争 「イギリス」を料理する 著者:コモナーズ・キッチン 出版社:リトル・モア ジャンル:文化人類学・民俗学

ISBN: 9784898155950
発売⽇: 2024/10/03
サイズ: 18.8×1.7cm/232p

「舌の上の階級闘争」 [著]コモナーズ・キッチン

 「イギリス料理は不味(まず)い」。そんな偏見を平気で口にする輩(やから)に、本書は冒頭から強烈なdisをかます。自分の国の飯の方が美味(うま)いのだという優越感に浸りたがる品性のない連中だ、と。
 著者は日本の農家とパン屋と大学教授の3人。階級によって異なるイギリスめしを作り、食らい、料理の社会背景を語る。
 例えば、キュウリのサンドウィッチ。イギリスの冷涼な気候では育たないキュウリは富の象徴だった。一方、白インゲンをトマトソースで甘じょっぱく煮込んだベイクドビーンズは、金も時間も無い労働者階級にとってホッとできる料理。寒い季節、ホクホクした豆料理をほおばって美味く感じないわけがないという。
 何を家や外で食べることができるのか、誰が誰に料理を作らせているのかは階級で異なるのだ。
 フィッシュ&チップス、イングリッシュブレックファスト、シェパーズパイ、プディングなどの料理を巡る12章。レシピもリアルな料理写真も食欲をそそる。読み終える頃には、新しい知識と肉汁とポテトで頭がいっぱいになった。