1. HOME
  2. 書評
  3. 「休息の歴史」書評 産業革命前は創造的な営み

「休息の歴史」書評 産業革命前は創造的な営み

評者: 隠岐さや香 / 朝⽇新聞掲載:2025年02月01日
休息の歴史 著者:アラン・コルバン 出版社:藤原書店 ジャンル:歴史・地理

ISBN: 9784865784381
発売⽇: 2024/10/29
サイズ: 19.5×1.9cm/176p

「休息の歴史」 [著]アラン・コルバン

 私は疲れている。だから休息について豊かな言葉が紡がれる本書に惹(ひ)かれた。現代の休日は労働の疲れを癒やし、再び労働に向かうためのものになってしまっている。本書はこうした考えが産業革命以降のものであるとして、過去の世界でどう違っていたのかを教えてくれる。
 もともと日曜日に休む習慣は旧約聖書の定める安息日に由来するが、これは祈りなど宗教的活動に捧げるべき日だった。働かないがゆえに聖なる日だったのである。老年期の引退や隠居、社交しない引きこもり生活、更には政治的失脚や監禁状態にも休息としての価値を見出(みいだ)す人はいたようだ。要は18世紀頃まで、休息とは喧噪(けんそう)を離れて己をよく知り、心の平穏を保ち、自分自身に戻るための創造的な営みと考えられていたのである。
 著者アラン・コルバンは1936年生まれ、「においの歴史」など、一昔前では歴史学の対象になると想像もされなかったテーマを発掘し、退職後も次々と著書を発表してきた。まさに休息の創造性を生きる著者である。